2026年05月18日号

(2026年05月11日~2026年05月15日)

先週の為替相場

介入警戒を押し切るドル高とレンジの上方ブレイク

 先週(5月11日-5月15日)の外国為替市場でドル円は、日本の通貨当局による為替介入への警戒感が根強く意識される中、米インフレ指標の上振れや原油価格の急騰、米長期金利の上昇といったドル高要因に押し上げられる展開となった。心理的な節目とされていた158円の「防衛ライン」を巡る激しい攻防を経て、週後半にはこれを突破し、158円台後半へとレンジを切り上げて取引を終えた。

週前半:介入警戒の急落と米CPI上振れによる買い戻し

 11日(月)から12日(火)にかけては、中東情勢の緊迫化に伴う原油高や有事のドル買いから、ドル円は156円台半ばからじりじりと上値を追う展開となった。12日の東京市場では一時157.75円まで上昇したものの、158円を目前にして突如156.78円まで約1円幅の急落を記録。大口の売り仕掛けや介入への警戒から神経質な動きを見せたが、下値は限定的だった。同日のNY市場で発表された4月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回ると、米連邦準備制度理事会(FRB)による年内の金利据え置き観測が強まり、米長期金利の上昇とともにドル買いが再燃。急落分を完全に帳消しにして下げ分を取り戻した。

週半ば:PPIサプライズと日銀サプライズの交錯

 13日(水)から14日(木)にかけては、さらなる米インフレ指標の強さと国内材料が交錯した。13日のNY市場で発表された4月の米生産者物価指数(PPI)が予想を大きく上回ると利上げ観測が再燃し、ドル円は157円台後半の高値圏に高留まりした。14日の東京市場では、米中首脳会談の無難な通過を背景に一時157.99円と158円ちょうどに迫ったが、増一行日銀審議委員(用語説明1)から早期利上げを求めるタカ派的発言が飛び出すとサプライズとなり、一時157.54円まで急激な円買いが走った。しかし、ここでも押し目買いは強く、同日のNY市場ではついに158円台を回復。その過程で157円台前半へ突発的に急落する覆面介入とみられる動きもあったが、ベッセント米財務長官が為替変動に一定の理解を示したこともあり、下値は支えられ力強く買い戻された。

週後半:インフレ再燃と158円台後半へのレンジ切り上げ

 15日(金)はドル全面高の様相を呈した。米中首脳会談の通過後、中国による米国産原油の輸入拡大報道などから原油先物価格が一時105ドル付近まで高騰。これに伴うインフレ警戒感から、米10年債利回りは節目の4.50%を上回り、約1年ぶりの高水準となる4.60%付近まで急上昇してドル買いを強烈に後押しした。ドル円は午後には158.67円まで高値を伸ばし、ロンドン時間中盤の中東停戦報道に伴う一時的な原油急落による乱高下を挟みつつも、NY市場ではドル高が優勢となった。週末は158.70円台(終値158.77円付近)で取引を終え、月上旬の介入による下げを完全に埋める形となった。

今週の見通し

 ドル円は介入警戒感が広がりつつも、堅調な地合いを維持する見込み。米国の物価統計の力強い伸びを受けて、米FRBによる年内利上げの期待が強まってきており、ドル高が広がりやすい地合いとなっている。日本も追加利上げの期待があるが、日本の利上げは元々見込まれていたものなのに対し、米国は利下げ基調が継続との見方から、ここにきての利上げ期待の台頭ということで、金融政策見通しの変化が激しい分、ドル高につながりやすい。米債利回りの上昇もドルを支える展開。物価上昇圧力を受けて、米長期債利回りは上昇を続けており、30年債は5.15%と2006年以来の高水準を付けている。こうしたドル高主導での展開では日本の通貨当局によるドル売り円買い介入が入っても、限定的な効果に終わることが多く、流れを変えることは難しい。

 さらにここにきて日本の財政赤字懸念が円売りにつながっている。高市首相は18日の政府与党連絡会議(用語説明2)でエネルギー価格の高騰を受けて補正予算案編成の検討を指示した。7-9月の電気・ガス料金の補助など、家計の負担軽減を狙った施策の実施において、一般予算の予備費1兆円では心もとないところがあり、例年であれば秋に行う補正予算を前倒しする形での対応となる。こうした動きは海外勢を中心に日本の財政赤字への警戒感を強める形となり、円売りの材料となる。

 ドル円は介入警戒感の中で、じっくりとした動きながら160円を目指す動きを見込んでいる。大台にしっかり乗せると、2024年に付けた161.95円が視野に入ってくる。

 ユーロドルはドル全面高を受けて上値の重い展開か。行き過ぎた下押しには慎重ながらも、戻りでは売りが出る展開が続いており、じっくりと1.1500ドルを試す流れを見込んでいる。

 ユーロ円はドル主導でやや不安定な動きも、ここにきて円売りも強まってきており、流れは上方向。ただ、ドル円で介入が入った場合はつれ安となる可能性が高いだけに、上値追いには少し慎重となりそうだ。

用語の解説

増一行日銀審議委員 東京大学法学部卒業後、三菱商事に入社。代表取締役常務執行役員・CFOなどを務めて退任。日本公認会計士協会理事などを経て、2025年7月より現職。前任は日立製作所出身の中村委員。いわゆる産業枠での人選。産業枠の委員はハト派となることが多く、特に前任の中村委員はハト派の筆頭格として知られていた。増委員は前任者に比べてハト派色が薄く、中立派と認識されている。
政府与党連絡会議 内閣の重要政策や国会運営について、政府首脳と連立与党を結ぶ意思決定機関。政府側からは首相、内閣官房長官などの主要閣僚、連立与党側からは党首、幹事長、政調会長などが出席する。自民党と公明党が連立政権を樹立した小渕内閣で始まった。

今週の注目指標

米FOMC議事要旨(4月28日、29日開催分)
5月21日03:00
☆☆
 4月28日、29日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公表される。同FOMCでは市場予想通り政策金利が据え置かれたが、投票結果が8対4と1992年10月FOMC以来の反対者数となった。これまでも利下げを主張してきたミラン理事が、4月会合でも利下げを主張したほか、クリーブランド地区連銀のハマック総裁、ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁、ダラス地区連銀のローガン総裁が、政策金利の据え置き自体には賛成としたものの、声明でこれまで通りの緩和バイアスを示すことに反対した。また、声明では3月会合での「インフレ率は依然やや高止まりしている」との表現から、「インフレ率は最近の世界的なエネルギー価格の上昇を部分的に反映し、高止まりしている」とインフレへの警戒感を強める表現を示している。
 今回の議事要旨で、FOMC内でのインフレ警戒が強まっていることが印象付けられ、次回からおそらくウォーシュ新議長の下での開催となるFOMCにおいても、利下げが当面難しく、利上げの可能性が意識される状況が示されると、ドル高の材料となる可能性がある。ドル円は160円に向けた動きが見込まれる。
豪雇用統計(4月)
5月21日10:30
☆☆☆
 21日に4月の豪雇用統計が発表される。今年に入って豪準備銀行(中銀)は3会合連続で利上げを実施した。ブロック総裁は3回目の利上げを決めた5月5日の会合後の会見で、一連の利上げを受けて「理事会は金融政策がやや引き締め的な水準にあると判断しており、これにより利上げを一時停止し、情勢に関連したインフレと成長のリスクを見極めることが可能になる」と発言しており、次回の会合では据え置きが見込まれている。ただ、市場では豪州の物価上昇圧力を警戒する動きが見られ、早い段階での利上げ再開への期待が残っている。豪雇用市場が強く出た場合は、利上げ期待を押し上げる形で豪ドル高となる可能性がある。
 前回3月の豪雇用統計は、雇用者数が前月比+1.79万人となり、2月の+4.96万人から伸びが鈍化した。ただ、正規雇用が+5.25万人の伸びになるなど内訳に強さが見られた。そのため、豪雇用市場は依然として堅調であるとの見方が広がっている。
 今回の予想は前月比+1.5万人と小幅な伸び鈍化が見込まれている。ただ、プラス圏は維持される見通しとなっている。失業率も豪州にとっては低い水準である4.3%で維持される見込みだ。雇用の伸びは米国などに比べると小さいが、豪州はそもそも人口が約2760万人ほどであり、米国の約12分の1、日本の約5分の1であることを考えると、比較的しっかりとした伸びと言える。予想前後であれば豪州の雇用は底堅いとの印象につながり、豪ドル高となる可能性がある。予想を超える伸びを示した場合は利上げ継続期待につながり、豪ドル円は1豪ドル=114.50円をターゲットに上昇する可能性がある。
日本全国消費者物価指数(CPI)(4月)
5月22日08:30
☆☆
 原油高を受けて世界的に物価の上昇圧力が高まる中で、日本でも物価高への警戒が強まっている。15日に発表された4月の国内企業物価指数は、前年比+4.9%と3月の+2.9%から一気に上昇し、ウクライナ紛争の影響で上昇した2023年5月以来の高水準となった。前月比では+2.3%まで伸びが加速した。2014年4月以来12年ぶりの伸び幅となる。国内企業物価指数の内訳をみると、石油・石炭製品や化学製品の伸びが強まっている。原油高の影響が見られる状況となっている。
 こうした状況の中で、22日に4月の日本全国消費者物価指数(全国CPI)が発表される。3月の同指標は生鮮除く前年比が+1.8%となった。2月の+1.6%からは上昇したものの、市場予想と一致したことや、インフレターゲットである+2%を下回っての推移であることから、市場の反応は限定的となった。
 今回は+1.7%と小幅な鈍化が見込まれている。先行指標となる4月の東京都区部消費者物価指数(東京CPI)は生鮮除くコア前年比が+1.5%と3月の+1.7%を下回った。ただ、これは東京都による第1子保育料無料の影響が出ていることから、全国CPIへの影響は限定的とみられている。一方で、国内企業物価指数に見られるように、原油高が物価に与える影響が日本でも大きなものになりつつある。消費者物価指数への波及が予想以上に早く、今回の全国CPIで予想を超える伸びが出てくると、日本銀行の早期利上げ期待につながり、円買いになると見込まれる。ドル円は157円台に向けた動きが予想される。

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