2026年06月01日号

(2026年05月25日~2026年05月29日)

先週の為替相場

地政学リスクの変化と160円目前の実需円売り、高値圏で強まる介入警戒

 先週(5月25日–5月29日)の外国為替市場でドル円は、米国とイランを巡る中東の地政学リスクの急変動に終始振り回される展開となった。週初は緊張緩和期待からドル売り・円買いが先行したものの、週半ば以降は軍事衝突報道による有事のドル買いと原油価格の急騰が相乗効果を生み、28日には一時159.65円まで急伸。160円の大台回復を意識する展開となった。心理的節目を前に政府・日銀によるドル売り円買い介入への警戒感が強まり、上値進行を阻まれたものの、日米金利差を背景とした実需円売り意欲は依然として根強く、週末にかけても159円台前半を維持する底堅い高値圏での攻防が続いた。

週前半:和平協議進展の期待と祝日による閑散相場、その後の再緊迫化

25日(月)から26日(火)にかけては、地政学リスクの緩和期待と突発的な軍事報道による一進一退の展開となった。

 25日の東京市場では、週末のトランプ米大統領による「イランとの和平協議がほぼまとまった」との発言を受け、緊張緩和への期待感から有事のドル買いが大きく巻き戻された。ドル円は先週末終値の159.10円台から158.74円まで一時下落したものの、下値では押し目買いが入り158.90円台を中心にもみ合った。なお、同日は英国(スプリング・バンク・ホリデー)(用語説明1)および米国(メモリアルデー)が祝日のため主要海外市場が休場となり、全体的に極めて様子見ムードの強い閑散相場となった。

 26日(火)に入ると風向きが変化した。東京市場午前に「米中央軍がイラン南部を攻撃した」との報道が伝わると和平協議への楽観論が後退。ロンドン市場にかけて米国・イスラエルによるイラン艦船攻撃やイラン側の強硬姿勢が相次いで報じられ、地政学リスクが再燃した。原油先物が93ドル台へ反発する動きに連動して有事のドル買いが強まり、一時159.24円まで上値を伸ばした。NY市場では原油価格の上昇が一服したものの、実需のドル買いが下値を支え、為替介入への警戒感からボラティリティが数年ぶりの低水準となる中で159円台前半を維持した。

週半ば:急激な円売り再燃と草案拒絶によるタカ派ドルの底堅さ

27日(水)は、リスク警戒の緩和による円売りと米国側の強硬姿勢がドル高を後押しした。

 27日の東京市場午前は159.18円まで押し戻される場面もあったが、午後に入ると一転して実需主導の円売り圧力が一気に強まり、ドル円は159.38円まで急上昇。ユーロ円が185.50円、ポンド円が214.36円へ水準を切り上げるなどクロス円も軒並み全面高となった。ロンドン市場では植田日銀総裁による早期利上げに向けた地ならし発言の浸透もあり調整は限定的。NY市場では、イラン国営通信が報じた「和平合意草案」を米ホワイトハウスが「完全なでっち上げ」と強く否定したことで、インフレ長期化を見据えたFRBのタカ派姿勢継続観測が改めて意識され、ドル円は159.50円付近まで一段と下値を固める動きを見せた。

週後半:160円目前の軍事衝突報道と、60日間の停戦延長合意による急反転

28日(木)から29日(金)にかけては、当週最大のボラティリティを記録する激しい往って来いとなった。

 28日の東京市場では、米軍によるイラン軍事施設への攻撃およびイラン側からの報復攻撃が相次いで伝わり、中東の緊迫化から有事のドル買いが爆発。ドル円は一時159.65円まで急騰し、160円の大台を試す動きを見せた。しかし、大台直前では政府・日銀による巨額の為替介入への警戒感が最高潮に達し、追随のドル買いが手控えられた。その後、イラン・パキスタン首脳による外交協議が伝わるとロンドン市場で159.38円付近まで反落。さらにNY市場では、米・イラン両国が「ホルムズ海峡の無制限航行を含む60日間の停戦延長と核開発交渉開始」で合意したとの報道が流れたことで安心感が広がり、ドル売りが優勢となって159円台前半へ値を落とした。

 29日(金)の東京市場では動意が一時後退。ロンドン市場では、財務省が発表した「外国為替平衡操作の実施状況」(用語説明2)において、前月分の為替介入実績が「11兆7349億円」と過去最大規模の巨額であったことが判明したが、市場はこれを織り込み済みとしてほぼ無反応であった。実需の円売りと当局への警戒が相殺し159円台前半で揉み合った。NY市場では、トランプ大統領が自身のSNSで「イランに関する最終判断のため今すぐ会合を開く」と投稿し、一時159.10円前後まで急落したものの、これまでの楽観発言の変遷から市場は冷静さを取り戻し、週末のポジション調整をこなしながら159.30円前後まで下落分をほぼ取り戻してクローズ。介入警戒を敷きつつも、ドル高・円安トレンドの根強さを残して一週間の取引を終えた。

今週の見通し

 ドル円は値幅自体は落ち着いているものの、中東情勢を警戒しながらやや神経質な動きが見込まれる。米国とイランの和平協議での暫定合意に対する期待感が継続しているが、28日に示された覚書について、米国とイランの双方から修正が要求されるなど、両国の主張の溝は深い。協議が決裂する可能性もあり、ある程度明確な方向性が出るまでドル円は動きにくい展開となる。日米の金利差を狙った取引などを支えに、下がると買いが出る展開が続いており、地合いは堅調である。

 中東情勢に進捗が見られないと、ドル高が進む可能性が高い。ドル円は160円に近づくと日本の通貨当局によるドル売り円買い介入の可能性が強まるため、動きは慎重なものになるが、地合いの強さから大台回復を果たす可能性が高いとみている。一方で米国とイランの暫定合意により、ホルムズ海峡の閉鎖が解除され、原油が大きく下落するなどの動きが見られるとドル売りとなりそうだ。その場合、158.50円前後がポイントとなる。同水準をしっかり割り込むとドル売りが加速する可能性がある。

 ユーロドルは1.16ドル台を中心に方向性を探る展開。中東情勢次第という面が大きい。米国とイランの和平協議進展でドル売りが進み、1.17ドル台にしっかり乗せてくるようだと、これまでの膠着した流れが変化する可能性がある。

 ユーロ円は中東情勢をにらんだドル主導の展開に不安定な動きが見込まれる。ECBの早期利上げ期待もあり、地合い自体は堅調で、184円台では買いが出る展開を見込んでいる。

用語の解説

スプリングバンクホリデー 5月の最終月曜日に制定されている英国の祝日。もともとは1871年に制定された「銀行休業法」に基づく銀行など金融機関の休業日であったが、徐々に政府機関や一般企業にも広がり、現在では英国全体の祝日となっている。
外国為替平衡操作の実施状況 財務省による為替相場の安定化のための外国為替平衡操作(為替介入)の実施状況を公表するもの。毎月の最終営業日に、前回発表期間の翌日から発表日の2営業日前までの介入実施状況を総額で示す。今回5月29日の発表は4月28日から5月27日までの分となる。実施日とその金額については、四半期ごとの発表となり、4-6月期については8月上旬に公表される。

今週の注目指標

米ISM製造業景気指数(5月)
6月1日23:00
☆☆☆
 4月は52.7と3月と同水準となった。市場予想は改善となっていたが、雇用が3月の48.7から46.4に悪化したこともあり、総合も横ばいに留まっている。今回の予想は53.1と小幅改善の見込み。前回弱く出た雇用や、中東紛争を受けたサプライサイドの混乱が押し上げ要因になっているとみられる入荷遅延、および仕入価格の水準にも要注意である。特に価格は前回84.6まで上昇し、2022年4月以来の高水準となった。今回さらに強く出るようだと、市場の物価高警戒につながり、ドル高となる可能性がある。ドル円は160円台に向けた動きが見込まれる。
ユーロ圏消費者物価指数(5月)(速報値)
6月2日18:00
☆☆☆
 ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は、米国による対イラン軍事作戦が始まるまで、3か月連続でインフレターゲットである2.0%を下回る水準で推移していた。3月に2.6%、4月に3.0%となり、今回5月分は3.3%まで伸びが加速する見込みとなっている。こうしたインフレの進行を受けて、ECBの早期利上げ期待が強まっており、11日のECB理事会で0.25%の利上げを行う可能性を短期金利市場は84%織り込んでいる。年内では2回の利上げを見込んでいる状況。物価の伸びが予想以上に強かった場合、11日の利上げがほぼ確実視される状況となり、年内の利上げについて3回の可能性が強まる形でユーロ高となる可能性がある。ユーロドルは1.1750ドルに向けた動きが見込まれる。
米雇用統計(5月)
6月5日21:30
☆☆☆
 前回4月分は非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想の+6.5万人を上回る+11.5万人の高い伸びとなった。失業率は4.3%で横ばい(正確には3月の4.26%から4.34%へ小幅な悪化)である。NFPの内訳を見ると、政府部門が-0.8万人で7か月連続のマイナス圏。民間部門は+12.3万人となった。そのうち財部門が+1.0万人。製造業が-0.2万人と小幅ながら4か月ぶりにマイナス圏に沈んでいる。建設業は+0.9万人で2か月連続のプラス圏。AIデータセンターの建設ラッシュなどが雇用につながったとみられる。民間サービスは+11.3万人と好調。教育・医療サービスが+4.6万人と全体を牽引した。米国でも進む高齢化を反映して、介護施設や在宅医療サービスでの増加が下支えとなっている。小売業が+2.2万人、運輸・倉庫業が+3.0万人とともに2か月連続でしっかりした伸びとなったことも、雇用全体の押し上げ要因である。
 ただ、小売業は倉庫型を含めたスーパーマーケット業、運輸・倉庫は宅配・メッセンジャー業に雇用増が偏っており、業界全体の伸びではない点には注意が必要だ。娯楽・接客業は+1.4万人。単体で1236万人の雇用を抱える大きな項目である飲食業が+1.72万人とまずまずの伸びとなって同部門を支えた。小売、運輸・倉庫、娯楽・接客などは一般的に経済に余裕があるときに伸びる項目だけに、雇用市場の堅調さへの期待感はあるが、前述のように一部業種に偏った伸びとなっているだけに、やや割り引いて考える必要がありそうだ。
 そのほか、労働参加率が0.1%の悪化、広義の失業率であるU6失業率(注)が8.2%と2か月連続で悪化して昨年12月以来の弱い数字になるなど、厳しさも見られる。平均時給は前月比+0.2%で3月から横ばい、前年比は+3.6%で3月の+3.4%から伸びたが、ともに市場予想(+0.3%、+3.8%)を下回っており、厳しい結果と言える。
 5月の米雇用統計の予想は、非農業部門雇用者数(NFP)が+8.5万人と前回から伸びが鈍化する見込みである。失業率は4.3%で横ばい、平均時給は前月比+0.3%と小幅改善、前年比+3.4%と鈍化の見込みとなっている。NFPの伸びはやや冴えない印象だが、ダラス連銀の試算するブレークイーブン雇用(失業率を悪化させないために必要な雇用者数)は3万人程度となっており、水準的にはまずまずである。予想前後であれば、相場への影響は限定的で、市場の注目は今後の利上げに向けて物価に集まるという展開が見込まれる。予想を大きく下回った場合は、ここにきて強まる年内利上げ期待が後退する形でドル売りとなる可能性がある。ドル円は158円台半ばに向けた動きが見込まれる。
※U6失業率:通常の失業率(U3)に加えて、正社員での職を望みながら、パートタイマーでの職しか得られていない労働者や、働く意思はあるものの調査期間中に求職活動を行っていなかったため労働力人口から省かれた人などを加えた広義の失業率。

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