2026年06月08日号

(2026年06月01日~2026年06月05日)

先週の為替相場

160円の大台攻防と根強い実需円売り、日銀利上げ見通しでの円買いも、米雇用統計後にドル高

 先週(6月1日–6月5日)の外国為替市場でドル円は、心理的節目である「160円の大台」を巡る週となった。日米欧の絶対的な金利差を受けた円キャリー取引の円売りがドル円やユーロ円を強力に下支えした。さらに中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の一時97ドル付近への急騰も、日本の貿易赤字拡大懸念を通じて円売り圧力を加速させた。これに対し、日本側は高市首相による投機的円売りへの牽制や、植田日銀総裁による利上げ示唆、さらには「日銀が6月利上げを検討」との観測報道で応戦し、ドル円が急落する場面を繰り返した。しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)がウォーシュ新議長のもとでタカ派姿勢を維持し、米求人件数の強さも確認されたことで下値は極めて堅かった。週末の米雇用統計後には一時160.35円付近まで急伸。直後に謎の急落を見せるなど、為替介入への警戒感が最高潮に達するなか、ドル高・円安トレンドの根強さを残して一週間の取引を終えた。

週前半:中東情勢の膠着と米求人件数の上振れ、160円を睨む神経質な膠着

 1日(月)から2日(火)にかけては、160円の節目を前にした神経質な揉み合いと、米経済指標の強さを受けたドル買いの地合いが形成された。

 1日の東京市場は、先週末終値水準の159.27円前後で開始。米国とイランの暫定合意を巡る主張の溝が意識され、原油高を背景に午前中に159.50円まで上昇した。しかし、株高により過度なリスク警戒が和らぐと159円台後半での買いは慎重になり、午後は159.40円台での揉み合いに終始した。ロンドン市場でも中東情勢の打開策待ちで膠着し、159円台半ばで小動きとなった。NY市場ではドル高が優勢となった。イランが米国との意思伝達を停止したとの報道が伝わると、一時159.75円付近まで上昇。FRBのタカ派姿勢から下値の堅さが意識されつつ、160円の大台を伺う展開となった。

 2日(火)の東京市場では、ドル円は159.60円から159.74円のわずか14銭という極めて狭いレンジで揉み合った。160円手前での通貨当局への介入警戒感が強い一方、中東情勢への警戒が下値を支えた。午後に入りアジア市場で株安が一服すると、リスク選好の円売りからクロス円が上昇。ユーロ円が186.10円まで上昇し大台を回復、ポンド円も215.32円まで買われた。NY市場では、米雇用動態調査(JOLTS)求人件数(用語説明1)が予想外に強い内容となり、米債利回りの上昇とともにドル円は160円に急接近した。採用率や離職率の低さなど、労働市場の不整合も指摘され大台乗せには至らなかったが、実需のドル買いが下値を支える底堅い推移が続いた。

週半ば:朝方の「160円到達」と当局の牽制、利上げ示唆による乱高下

 3日(水)は、当週最初の大きな節目を迎え、市場のボラティリティが急激に高まる一日となった。

 3日の東京市場朝方、地政学リスクへの警戒からドル買いが爆発した。イランが近隣諸国へ弾道ミサイルを発射したとの報道や、米軍によるイラン軍事施設への攻撃報道を受け、ドル円は一時160.00円の大台を付けた。しかし、大台を維持する勢いはなく、介入警戒感からその後159.82円まで調整。後場に日経平均株価が一時2000円を超える急上昇を見せたことでリスク警戒は限定的となり、下値では再び円売りの動きが下支えした。

 ロンドン市場に入ると、ドル円は神経質に乱高下した。高市首相が投機的な円売りへの対応を明言し、さらに植田日銀総裁が「物価上振れリスクが高まれば利上げを議論」と早期利上げに前向きな姿勢を示したため、ドル円は一時159.37円付近まで急落した。しかし、この急落も実需の激しい円売り圧力に即座に吸収された。中東情勢の緊迫化で原油先物が97ドル付近へ急騰し、日本の貿易赤字拡大懸念が意識されたほか、米10年債利回りが4.485%付近へ上昇。圧倒的な日米金利差を背景とした円キャリー需要が押し目を猛烈に買い戻し、すぐに159.80円付近へ反発した。NY市場でもFRBの年内利下げ観測後退を背景にドル高が進み、下値を固める動きとなった。

週後半:日銀利上げ検討報道による急落と、米雇用統計後の160.35円急伸・急反転

 4日(木)から5日(金)にかけては、金融政策を巡る観測報道と最重要指標である米雇用統計の発表が重なった。

 4日の東京市場でドル円は朝方に一時160.09円を付け、高値圏で推移した。イスラエルとレバノンの停戦合意報道によるドル安で159.85円前後へ下落するもすぐに買い戻された。その後、昼過ぎに通信社が「日銀が今月利上げを検討、年内追加利上げの可能性も」と報じると、円買いが一気に強まり一時159.61円まで急落した。しかし、ここでもすぐに159.90円台に戻すなど、円高方向への調整には極めて慎重な姿勢が示された。ロンドン・NY市場では、翌日の雇用統計を前に完全に様子見ムードとなり、160.00円付近での膠着状態に終始した。欧州通貨ではECBの追加利上げスタンスからユーロ円が186円台へ上昇し、堅調なトレンドを維持した。

 5日(金)の東京・ロンドン市場は、米雇用統計発表を控えて動意が後退。ドル円は160円付近で値幅14銭と完全に膠着状態となった。

 日本時間午後9時30分、5月の米雇用統計が発表されると市場は激震した。結果はFRBのタカ派姿勢を正当化する強い内容となり、ドル高が急加速してドル円は一時160.35円付近まで急伸した。しかし、大台を突破した直後、突如として巨額の売りが出ると159.75円まで急速に売り崩された。市場では介入の是非を巡り緊迫感が走ったが、底流にあるドル高トレンドを覆すには至らなかった。短期金融市場がFRBの高金利維持を完全に織り込むなか、米株式市場の調整売りや原油高の一服をこなしつつ、実需の押し目買いが発動。ドル円は即座に160円台へと買い戻され、週末のポジション調整を経て160.32円前後まで下落分をほぼ取り戻してクローズした。当局への警戒を敷きつつも、歴史的なドル高・円安のトレンドの根強さを証明して一週間の取引を終えた。

今週の見通し

 ドル円はドル高円安基調が継続。今年最初の介入が入ったとみられる4月30日の高値である160.72円が意識される展開となる。同水準を超えると2024年7月に付けた直近高値161.95円が視野に入ってくる。

 米国の雇用市場の堅調さが、先週の米雇用統計と米雇用動態調査(JOLTS)求人件数によって確認された。これを受けてウォーシュ新議長の下での利上げ路線が期待される展開となっている。CMEのFedWatchツール(用語説明2)での年内利上げ期待は、米雇用統計前の60%程度から75%前後まで上昇、短期金利市場ではほぼ100%を織り込む動きとなっている。

 中東情勢の緊迫化も有事のドル買いを誘いやすい地合いにつながっている。イスラエル軍は7日、レバノンの首都ベイルートの南部郊外にある「ヒズボラ」のインフラ施設を攻撃した。イラン側はこれを受けてイスラエルに報復攻撃、イスラエルもイランのイスファハンなどを攻撃するなど事態が深刻化している。

 こうした状況からドル高が継続すると予想される。もっとも、先週金曜日、米雇用統計後のドル高局面でドル円の値動きはユーロドルやポンドドルに比べると抑えられた。日本の通貨当局によるドル売り円買い介入への警戒感が、過度なドル買い円売りを抑えたとみられる。この後もじりじりとした動きが見込まれる。ゆっくりと160円台後半から161円台に向けた動きが進むとみている。

 ユーロドルは1.1500ドルに向けた動きが見込まれる。米国の利上げ期待からのユーロ売りドル買いと、有事のドル買いが、ユーロドルの上値を抑える展開となりそう。ターゲットは3月13日に付けた1.1411ドル。

 ユーロ円はドル主導の展開の中で、不安定な動きが見込まれる。ドル円の堅調さもあって、先週は186円台まで一時上値を伸ばしたが、いったん大きな調整が入った形となった。中東情勢をにらんで、リスク警戒の円買いなども意識され、上値の重さが継続か。ドル円でのドル売り円買い介入にも要注意で、もし実施されるとユーロ円も連れ安が見込まれる。

用語の解説

米雇用動態調査(JOLTS)求人件数 米雇用動態調査(通称 JOLTS:Job Openings and Labor Turnover Survey)は、米労働省が毎月発表する労働市場の「労働力の需給や勢い」を測定するための経済指標である。いわゆる「米雇用統計」が雇用の“結果”を表すのに対し、JOLTSは「企業がどれだけ人を探しているか」「労働者がどれだけ強気か」という“中身と流動性”を示す。求人件数のほか、自発的離職率、採用者数、採用率、解雇者数、解雇率なども発表される。求人件数は労働需要の強さを表すという点から、最も注目される。
CMEのFedWatchツール 米国のCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)グループが、30日物フェデラル・ファンド(FF)金利先物の価格データをもとに、今後のFOMCでの政策金利の目標値が変更される可能性がどの程度あるかを示したもの。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI)(5月)
6月10日21:30
☆☆☆
 10日に米労働省が5月の米消費者物価指数(CPI)を発表する。5日に発表された5月の米雇用統計が力強さを見せたことで、米国の年内利上げ期待が高まっている。米FRBの2大命題(雇用の最大化と物価の安定)の一つとして、利上げ実施のカギを握る物価統計に注目が集まる。
 前回4月の米CPIは、前年比+3.8%と3月の+3.3%から伸びが加速した。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア前年比も+2.8%と3月の+2.6%から伸びが加速している。ともに市場予想を小幅ながら上回る強い結果となった。内訳をみると、ガソリンが前年比+28.4%と大きく伸びたことで、エネルギー全体でも+17.9%と高い伸びとなり、総合指数の伸びを支えている。ガソリンは対イラン軍事作戦を受けて、2月から3月にかけて前月比+21.2%と大きく伸びた後、4月も前月比で+5.4%と上昇傾向が継続している。食品は家庭用食品が前年比+2.9%と3月の+1.9%から伸びが大きく加速し、全体でも+3.2%と高い伸びになった。食品は牛肉の伸びが目立つほか、野菜や果物など幅広い品目で価格上昇がみられる。ガソリン価格の上昇を受けた輸送コスト高が価格を押し上げているとみられる。
 コア指数は財部門が前年比+1.1%と3月の+1.2%から小幅に鈍化。前月比で+0.03%とかなり低い伸びにとどまっている。衣料品が6カ月連続で伸びが強まり+4.2%まで伸びているが、新車価格の低下が見られるなど、項目ごとにまちまちで、全体として相殺された。サービス部門は前年比+3.3%と3月の+3.0%から伸びて全体の伸びにつながった。コアサービスの58.6%と相当部分を占める住居費が前年比+3.3%へと伸び、全体を押し上げる形となった。
 ただ、こちらは特殊要因によるところが大きい。住居費のうち家賃などは比較対象を6つのサンプル群に分けて半年ごとの変化を確認する形で算出する。しかし昨年10月は米政府機関閉鎖の影響でデータが取れず、昨年10月のデータは昨年4月のデータで置き換えた。そのため、実態よりも低く出ていたとみられ、その比較で今回が高くなったという結果になった。今後は正常化していくことが期待されている。
 今回の市場予想は前年比+4.2%、コア前年比+2.9%と4月を超える伸びが見込まれている。1日に発表された5月の米ISM製造業景気指数で価格指数が82.1と高い水準で推移し、3日発表の同非製造業景気指数では価格指数が71.3に上昇し、2022年8月以来の高水準となっている。物価の上昇傾向が印象付けられる状況となっており、CPIでも高い伸びが見込まれる。前回のCPIを押し上げたガソリン価格については、EIA(米エネルギー情報局)による全米全種平均で4月の1ガロン当たり4.236ドルから5月は4.609ドルへ前月比+8.8%の伸びとなっており、今回も全体を押し上げるとみられる。
 市場予想通りもしくはそれ以上の伸び加速が見られると、年内利上げ期待がもう一段押し上げられ、ドル高が強まると予想される。ドル円は年初来高値である160.72円に向けた動きが見込まれる。
ECB理事会
6月11日21:15
☆☆☆
 欧州中央銀行(ECB)は11日の理事会で、G7の中央銀行では初めて、米国・イスラエルの対イラン軍事作戦に起因するインフレ圧力に対応した利上げを実施する見込みとなっている。短期金利市場での利上げの織り込みはほぼ100%となっている。ユーロ圏の5月の消費者物価指数(HICP)は前年比+3.2%まで上昇。同指数はイラン戦争開始前まで3カ月連続でインフレターゲットである2.0%を下回る水準で推移していた。こうした物価高を受けてECBは2023年9月以来の利上げに踏み切るとみられている。
 注目は声明やラガルド総裁会見での今後の姿勢だ。市場は今回を含めて年内3回の利上げを予想している。今後の利上げ継続に向けた積極的な表現が出てくるとユーロ買いを誘いそう。一方でイラン戦争を受けたユーロ圏経済の厳しい状況への警戒などが印象付けられるとユーロ売りとなりそう。積極的な追加利上げ期待が広がるとユーロドルは1.1600ドル台回復に向けた動きが見込まれる。
米生産者物価指数(PPI)(5月)
6月11日21:30
☆☆☆
 米PPIは前回4月分が前年比+6.0%と3月の+4.3%から一気に伸びが加速、市場予想の+4.8%も大きく上回るサプライズな強さを見せた。3年4カ月ぶりの高い伸びとなっている。食品とエネルギーを除くコア前年比も+5.2%と3月の+4.0%から一気に伸び、市場予想の+4.3%を大きく超えている。PPIはCPIに比べてコスト上昇時の価格転嫁が起きやすい面があり、エネルギー価格の上昇を受けた輸送・倉庫コストの拡大などがPPIを押し上げたとみられる。こうした性質から、PPIはCPIの先行指標とされており、強い伸びが継続すると、今後のCPIの上昇につながり、ドル高が見込まれる。
 今回の市場予想は前年比+6.4%、コア前年比+5.4%ともに前回から伸びが強まる見込みとなっている。前日の米CPIの伸びが予想を上回り、さらにPPIの伸びも予想を上回ると、ドル高が加速する可能性がある。ドル円は161円台に乗せ、2024年7月に付けた直近高値161.95円をトライする展開になる可能性がある。

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