2026年06月15日号
先週の為替相場
地政学リスクの乱高下と160円台での膠着、トランプSNS発言で一時159円台へ急落も底堅さ維持
先週(6月8日–6月12日)の外国為替市場でドル円は、中東情勢を巡る地政学リスクの変調と政治的発言に激しく翻弄され、心理的節目である「160円の大台」を挟んで方向感の定まりにくい神経質な一週間となった。週前半は、5日発表の強い米雇用統計を受けたドル買いの地合いが根強く、中東での緊迫化に伴う原油高や「有事のドル買い」がドル円を160円台前半から半ばへと強力に下支えした。これに対し、160円台後半では日本の通貨当局による為替介入への警戒感が高まり、じり高ながらも上値を抑えられる膠着状態が続いた。週半ばには米CPI・PPIの発表を経て一時4月30日以来の高値となる160.59円まで上値を伸ばした。しかし週後半の11日NY終盤、トランプ大統領がSNSで「イランとの合意成立」を突如発表すると地政学リスクが急速に後退し、それまで強固だった160円の大台を割り込んで159.58円まで急落する場面を繰り返した。週末にはイラン側の否定報道や実需の押し目買いから再び160.30円台へと急反発するなど、突発的な報道に激しく揺さぶられつつも、底流にあるドル高・円安トレンドの根強さを残して一週間の取引を終えた。
週前半:雇用統計後のドル高維持と中東リスク緩和、160円台前半での神経質な揉み合い
8日(月)から9日(火)にかけては、5日の力強い米雇用統計を受けたドル買いの流れを引き継ぎつつも、中東情勢の動向に一喜一憂する展開となった。
8日の東京市場は、ドル高が優勢で開始。朝方に先週末高値を更新する160.35円を付けると、午後には160.39円まで上値を伸ばした。しかし、160円台での介入警戒感からその後は160.20円台へ小幅に反落。ロンドン市場では序盤に一時159.86円まで急落する場面もあったが、160.00円に控える巨額のオプション期限が意識されて同水準へ引き戻された。NY市場では、イランの軍事作戦終了宣言で有事のドル高は一服したものの、FRBの年内利上げ確率100%織り込みがドルの下値を強く支え、投機筋の円売り越しも手伝って160円台を維持した。
9日(火)の東京市場では、イラン・イスラエルの攻撃停止発表を受けて原油先物が90ドルを割り込み、これまでの「有事のドル買い」の調整売り(ドル安)とリスク選好の円売りが交錯。ドル円は160.07円から160.26円の狭いレンジでの揉み合いに終始した。一方、クロス円は堅調となり、ユーロ円が184.99円、ポンド円が214.13円まで上昇。ロンドン市場でも翌日の米CPIを前に様子見ムードが広がるなか、株高を好感したリスク選好の円売りが一段と活発化し、ユーロ円は185.30円付近、ポンド円は214.60円付近まで大きく値を上げた。NY市場では商いが通常の7〜8割に落ち込むなか、ドルが買い戻されて160円台半ばまでじり高となり、下値を固める展開が続いた。
週半ば:米軍の報復攻撃による160.53円到達と、米CPI発表後の大台維持
10日(水)は、地政学リスクの再燃と最注目指標である米CPIの発表が重なり、為替市場の緊張感が一段と高まる一日となった。
10日の東京市場では、朝方に米中央軍(用語説明1)がイランへの報復攻撃を行ったとの報道を受け、有事のドル買いが先行して160.43円まで上昇。しかし、その後に攻撃完了が伝わると事態鎮静化への期待から160.24円まで下落するなど、夜のCPI発表を控えて160.35円を挟んだ小動きにとどまった。
ロンドン市場に入ると、トランプ大統領がSNSでイランに対して強硬姿勢を示したことで地政学リスクへの警戒感が再び強まった。欧州株先物の下落とともに「有事のドル買い」が優勢となり、ドル円は東京市場の高値を超えて160.53円まで上値を伸ばし、今年最初の介入が実施されたとみられる4月30日以来の高値・円安水準を記録した。
NY市場では、注目された5月の米CPIが発表された。総合指数がイラン紛争に伴うエネルギー価格上昇で3年超ぶりの高い伸びとなった一方、コア指数が前月比で予想を下回る内容となった。指標発表直後は若干のドル安反応からドル円が値を落とす場面もあったが、160円の大台は強固に維持され、その後は160.50円近辺まで買い戻された。日銀の植田総裁が入院により今月の決定会合を欠席すると報じられたが、市場の利上げ見通しに変化はなく、全体としてインフレの動向を見極める様子見ムードに落ち着いた。
週後半:160.59円の当週高値更新とトランプ発言による急落、その後の急反転
11日(木)から12日(金)にかけては、主要イベントの通過と政治トップのSNS発言が重なり、相場は週内で最も激しい乱高下を見せた。
11日の東京・ロンドン市場は、ECB理事会の政策発表や米PPIの発表を控えて完全に様子見ムードに包まれた。中東情勢の報道に揺さぶられながらも値幅は限定的だったが、ロンドン勢の本格参入とともにややドル買いが強まると、朝方の高値を抜けて160.59円まで上値を伸ばし当週の最高値を記録した。しかし、潮目が激変したのはNY市場終盤(日本時間12日未明)だった。トランプ大統領がSNSで「イランが核兵器を持たないことで合意がまとまった」と言及。地政学リスクの一気の後退から有事のドル買いが猛烈に巻き戻され、それまで堅かった160円の大台をあっさりと割り込み、159.58円まで急落した。
12日(金)の東京市場に入ると、流れは再び一転した。イランメディアが最終合意を否定したことがドル高に作用したほか、原油安や日経平均株価の6万7000円台回復を受けたリスク選好の円売りが相乗効果を生み、ドル円は160.30円台まで急速に値を戻した。クロス円も上昇基調を強め、午後にはユーロ円が185.48円、ポンド円が215.00円まで上値を伸ばす堅調な展開となった。ロンドン市場では米国とイランの停戦交渉を巡る報道が入り乱れて一時160円割れを試す場面もあったが、NY市場では早ければ14日にもジュネーブで署名式が行われるとの期待や、翌週にFOMCと日銀決定会合を控えた様子見ムードから160円台での推移が維持された。実際の合意成立へのハードルの高さも意識され、160円割れでの実需の押し目買い意欲の強さを改めて証明する形で、週末は160.24円前後でクローズ。激しい変動をこなしつつも、ドル高・円安トレンドの根底にある底堅さを残して一週間の取引を終えた。
今週の見通し
米国とイランの戦闘終結に向けた和平協議について、トランプ大統領は15日朝(米東部時間14日)に、合意が成立したと発表した。これまでトランプ大統領が合意が近いなどの発言を行っても、イラン側から否定的なコメントが出ることが多かったが、イラン外務次官が「覚書の最終版が合意に達した、正式な調印式は金曜日」と発表。正式な合意文書の調印は19日金曜日にスイスのジュネーブで行われ、調印後にホルムズ海峡が開放されるとしている。イスラエルが反対していることなど、不安要素はあるものの、いったんはリスク選好の動きが広がっている。ドルは週明け全面安で始まり、ドル円は12日終値の160.24円前後で取引を開始した後、159.74円まで下げた。ユーロドルが1.1569ドル付近から1.1600ドル台へ上昇するなど、ドルは全面安となっている。
もっともドル円は下げ分を回復し、160円台前半での取引に復した。世界的に株式市場が大幅高、原油安が大きく進むなど、リスク選好の動きが広がる中で、ドル円が上昇。19日の正式調印までまだ時間があることなどから、ユーロドルなどでもドル安が一服するなど、慎重な動きもみられる。
ドル円は上下ともに慎重な動きが続く可能性が高い。160円台後半からは通貨当局によるドル売り円買い介入への警戒感が強まることもあり、上値追いには慎重。一方で世界的な株高を受けたリスク選好の円売りや、日米の金利差を狙った円売りなどが下値を支えるとみられる。
日銀金融政策決定会合は利上げが濃厚も、すでにほとんど織り込み済みとみられる。声明や会見での今後の姿勢が注目材料となるが、植田日銀総裁が不在となることもあり、無難な表現にとどまり、相場への影響が限られると見込まれている。米FOMCは政策金利の据え置きがほぼ確実視されている。当面の据え置きを示唆してくる可能性が高い。こちらも織り込み済みであるが、今回はFOMC参加メンバーによる経済見通し(SEP)(用語説明2)が公表される回に当たっており、その結果次第で動きが出る可能性から、FOMCまでは様子見ムードが広がる可能性が高そうだ。
ドル円は159.50-160.50円のレンジを中心とした推移から、次の方向性を見極めたいところ。リスクはややドル高円安方向とみているが、介入警戒感が継続する中で、急騰などの動きは難しく、じっくりしたドル高円安進行を見込んでいる。
ユーロドルは米国とイランの和平合意でのドル安に加え、先週の理事会での利上げなどを受けて、じりじりとしたユーロ高を期待している。1.1600ドルを中心とした推移から、1.17ドル台を試す機会をうかがう展開か。
ユーロ円はドル主導の展開の中で、不安定な動きが見込まれるが、地合いは上方向か。米国とイランの和平合意を受けた世界的な株高の流れによるリスク選好の円売りなどが支えになると期待している。今年最初の介入が入ったとみられる4月30日に円高が一気に進んでユーロ円も大きく下げているが、その前に付けていた187.50円前後がユーロ円のターゲットとなりそう。
用語の解説
| 米中央軍 | 中東・中央アジア・東アフリカ地域における米軍の作戦行動を統括する地域別の統合軍。フロリダ州タンパにあるマクディール空軍基地に司令部がある。現在の司令官はクーパー海軍大将。 |
|---|---|
| 経済見通し(SEP) | 年8回開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)のうち、3月、6月、9月、12月の会合終了時に公表されるFOMC参加者(FRB理事と各地区連銀総裁)による経済見通しをまとめたもの。数年後までの年末時点と中長期の経済成長・失業率・物価・政策金利水準見通しなどが示される。特に注目度が高いのが、年末時点での参加者の政策金利見通しをドットで示したドットチャートとなる。 |
今週の注目指標
| 日銀金融政策決定会合 6月15日・16日 ☆☆☆ | 今週の日銀金融政策決定会合は、4会合ぶりとなる利上げが見込まれている。2月28日に始まった米国・イスラエルによる対イラン軍事作戦はようやく米国とイランの間で和平合意が決まった。これまで中東情勢の影響もあり、日銀は金融政策の変更にやや慎重な姿勢を示してきた。しかし、植田日銀総裁が先週行われた講演で「全体として物価上振れリスクの方が大きく、より早く表れてくる可能性が高い」との見方を示すなど、ここにきて物価高への警戒感を強く示しており、今回の会合での利上げを織り込む動きにつながっている。 日銀は10日に、植田日銀総裁が肝嚢胞の治療のため9日から2週間程度入院すると発表した。今回の会合は欠席となり、8名での投票となるが、利上げに向けた状況は変わらないとみられている。前回の会合では、タカ派で知られる高田委員、田村委員に加え、中立派とされる中川委員が利上げを主張した。その後、小枝委員や増委員が講演で利上げに前向きな発言を行っており、利上げが多数派になる状況は変わらないとみられる。なお、氷見野副総裁が会合での議長代行となり、会合後の会見は内田副総裁が代理として実施する。利上げ自体は織り込み済みとなるため、注目は今後に向けた声明や会見での発言である。今回で利上げが一服するとの印象を市場に与えると、利上げをしても円安が加速するという動きを見せる可能性がある。 ただ、おそらくは今後も利上げが継続する可能性を示す穏当なものになると見込まれる。総裁代理として会見を行う内田副総裁は、2024年の講演で「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」と発言したことや、黒田総裁時代に企画局長として異次元緩和の実行部隊を指揮してきたということでハト派の印象があるが、今回はあくまで代理という立場であり、そつなくこなすのではとの見方が強い。継続した利上げ姿勢が印象付けられた場合は円高の材料となる。ドル円は159.50円割れをトライする展開が見込まれる。 |
|---|---|
| 米連邦公開市場委員会(FOMC) 6月18日03:00 ☆☆☆ | ウォーシュ新議長のもとでの初の会合となる16・17日の米FOMCは、政策金利の現状維持が見込まれている。10日に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)が前年比+4.2%と、2023年4月以来約3年ぶりの高水準を記録するなど、ガソリン高などを背景に米国では物価高が進行している。トランプ大統領はウォーシュ新議長にハト派スタンスでの政策運営を望んでいるとみられるが、さすがに利下げできるような状況ではなく、当面の据え置きが見込まれている。なお、米国とイランの和平合意を受けて、ここからの物価高進行が落ち着くとの期待が見られ、一時広がっていた年内の利上げ期待がやや後退している。こうした動きがFOMCの声明や議長会見でどこまで出てくるかが注目される。 また、今回はFOMCメンバーによる経済見通し(SEP)が公表される回に当たっている。注目は年末時点での政策金利見通しを示すドットチャートである(ウォーシュ新議長は4月の上院銀行委員会での公聴会で、ドットチャートに否定的な見解を示しており、将来的な廃止が見込まれるが、今回は公表される見込みである)。前回3月のドットチャートでは2026年に1回の利下げ、2027年中に1回の利下げが示されており、昨年12月時点と同じ結果となった。今回は2026年中は政策金利の据え置き見通しが示されると予想される。市場は利上げの期待を強めているが、FOMCは利上げには少し慎重な姿勢を見せるという予想がもともと強かったところに、米国とイランの和平合意報道があり、据え置きへの期待がもう一段強まっている。2027年に入っての見通しも利下げ方向が維持されるとみており、次のFRBの行動について、市場の期待する利上げではなく、当面の据え置きとその後の利下げになるとの見方が強い。 ただ、この辺りは見通しがある程度ばらけるところで、ドットチャートなどでのタカ派シフトが見られるとドル高の材料となる。なお、物価見通しは大幅な引き上げ見通しとなっている。Longer runと呼ばれる長期の政策金利見通し(景気を安定させる中立金利を意味する)は3.125%での維持が見込まれる。 |
| 英中銀金融政策会合(MPC) 6月18日20:00 ☆☆☆ | 18日の英中銀MPCで、政策金利は現行の3.75%での据え置きが見込まれている。11日のECB理事会は、2023年9月以来、約2年9か月ぶりの利上げを決定した。ECBは声明で「中東の戦争がインフレ圧力を生み出した。利上げは、このショックがどのように進展し、中期見通しに影響を与え得るかを示す様々なシナリオにおいて確固たるものとなる」と示し、中東紛染による物価高圧力への警戒感を示した。英中銀もインフレへの警戒感を強めており、3月には今回の会合での利上げ見通しが100%織り込まれる状況も見られた。4月末時点でも70%台と、利上げ派が目立っていた。しかし、3月分が前年比+3.3%まで伸びが加速した英消費者物価指数(CPI)が、4月は予想を下回る+2.8%まで伸びが落ち着いたこともあり、利上げ期待が大きく後退。直近では今回の会合での据え置き見通しが95%と、ほぼ据え置きを織り込む状況となっている。次回7月の利上げ期待は40%程度となっており、据え置きがまだ優勢である。9月の会合までには利上げをするという見通しは、80%弱となっている。 ハト派で知られるテイラー委員は、8日の英メディア・スカイでのインタビューで「最悪のシナリオに陥らない限り、現状の金利水準で問題ないと感じている」と発言した。こうしたハト派委員の見方が今回は多数派となる見込みとなっている。注目は投票の内訳で、前回会合で利上げを主張したピル委員に、複数名の委員が同調して僅差での据え置きになるようだと、比較的早い段階での利上げを期待する動きが強まり、ポンド高となる可能性がある。また、英中銀は会合結果と同時に、声明と議事要旨を公表する。その中で委員それぞれの見解が公表されるため、それらも参考に、この後の英金融政策見通しに変化が生じるかがポイントとなる。早期の利上げ期待が強まると、ポンドドルは1ポンド=1.3500ドル台に向けた動きが期待される。 |
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