2026年06月29日号
先週の為替相場
米FRBのタカ派姿勢の影響を受けたドル高と、介入警戒感による上値の抑制
先週(6月22日–6月26日)の外国為替市場でドル円は、前週の米FOMC(連邦公開市場委員会)でのFRBのタカ派サプライズ(声明文からの緩和バイアス削除、インフレ見通し上方修正、議長会見での物価高対応の強調など)の影響が継続し、ドル高が主導する展開となった。ドル円は161円台後半を中心にきわめて底堅く推移し、一時2024年7月に付けた161.95円の歴史的な高値に面合わせする局面が見られた。
週を通じて市場の関心は「162.00円」の大台接近に伴う政府・日銀による為替介入の有無に完全に集中しており、下がれば構造的な金利差から買われる一方で、大台に近づけば実弾介入への警戒からドル売り円買いが出るという、狭い範囲で神経質な動きを繰り返す一週間となった。
週前半(22日-23日): 162円手前での急騰落と、日米財務相合意
22日(月)朝方はイスラエルとレバノンの民兵組織ヒズボラとの対立激化、それに伴う原油相場の上昇を受けて「有事のドル買い」と「リスク警戒の円買い」が交錯。一時161.19円まで下押ししたものの、米イラン高官協議の対話継続で原油高が一服。日経平均株価の急伸(一時1,000円超高)にみられるリスク選好の動きから円売りが強まり、海外時間には161.93円まで急伸して2024年7月に付けた高値である161.95円に迫った。しかし直後に、片山財務相がベッセント米財務長官とオンライン会談を行ったと報じられると、介入への警戒感から161.08円付近まで急落する神経質な展開となった。
23日(火)には片山財務相が会談を認め「必要とあれば断固たる措置を取ることで日米合意した」と円安を強く牽制。実際の介入こそなかったものの、口先介入のトーンが一層強まったことで、急速な上値追いは抑制された。
週半ば(24日-25日): 欧州通貨安によるドル高波及と、日銀審議委員発言
24日(水)は東京市場で上下20銭未満の極小レンジでの揉み合いに終始。海外市場では、欧州PMIの悪化や独Ifo景況感指数の下振れ、さらにラガルドECB総裁の慎重姿勢を受けてユーロ売りが加速した。ユーロドルが約1年ぶりのユーロ安圏となる1.1325ドル前後を付ける中、相対的なドル全面高がドル円の下値を支え、161.78円付近へ再び上昇した。
25日(木)には日銀の田村審議委員(用語説明1)が「中立金利は2%前後」「利上げは数ヶ月に一度のペース」と発言し、一時161.56円まで円高に振れたものの、同委員のタカ派姿勢は想定内としてすぐに値を戻した。同日夜発表の米PCE価格指数(用語説明2)通過後は米金利が低下したものの、日経平均の3,000円超の暴騰に伴うクロス円の上昇がドル円を強固に下支えし、一時161.95円の歴史的な高値に面合わせした。
週後半(26日): 週末のポジション調整
162円台に届かなかったことで短期勢のポジション調整(ドル売り)が持ち込まれ、日経平均の急落や米長期金利低下も相まって、一時161.50円台へ下押しした。しかし、日米金利差を狙った円キャリー取引の底固さは崩れず、海外時間にかけて161.70円台へと押し戻されて一週間の取引を終えた。
今週の見通し
今週も米FRBのタカ派姿勢を受けた米国の早期利上げ期待の高まりによる日米金利差を狙った円キャリー取引の拡大見込みを背景としたドル高円安と、節目である162.00円を前にした日本の通貨当局によるドル売り円買い介入の可能性を警戒した上値の重さのせめぎ合いが見込まれる。いったんの停戦で合意している米国とイランの対立や、イスラエルとレバノンの民兵組織ヒズボラとの対立が見られることで、リスク警戒のドル買いが見られることも、ドル円を支える材料となる。
今週は2日に6月の米雇用統計の発表が予定されている(米雇用統計は通常金曜日の発表であるが、7月3日は米独立記念日の振替休日となるため、2日の発表)。ISM製造業、米雇用動態調査(JOLTS)など、関連する重要指標の発表も相次ぐ。これらの結果が堅調なものになると、ドル買いに安心感を与え、ドル円での大台突破のきっかけになる可能性がある。大台突破前後でドル売り介入が入らなかった場合、ストップロス注文などを巻き込んでドル買いが加速する可能性がある。
仮に実弾介入が執行された場合は、瞬間的に3円〜5円規模の急激な円高進行が予想される。ただ、米国の早期利上げ期待からドル全面高の流れが続いていた場合は、介入の効果は一時的なものにとどまる可能性が高い。下げ一巡後は買い戻しが入る可能性がある。
ドル高が優勢となる中、ユーロドルは下方向の意識が強い。先週は1ユーロ=1.1325ドルまでユーロ安が進んだ。今年3月に付けたそれまでの年初来安値1.1411ドルを下回っている。ユーロ圏の景気減速懸念などもあり、この後も下方向のリスクがやや高いとみている。戻りの局面で1.1450ドル前後が重くなるようだと、1.1300ドルトライに向けた動きが強まりそうだ。
ユーロ円はドル主導の中でやや不安定な動きが見られる。ドル円の堅調地合いが下値を支える一方、対ドルでのユーロ売りなどが重石となっている。この後も183.00-185.00円を中心としたレンジの中で不安定な動きが続くとみている。
用語の解説
| 田村審議委員 | 田村直樹日銀審議委員。三井住友銀行専務執行役員、同行上席顧問を経て、2022年7月に日銀審議委員に就任。高田創委員と並んで、利上げに積極的なタカ派の委員として知られる。6対3で政策金利の据え置きを決めた今年4月の日銀金融政策決定会合では、高田委員、中川委員とともに利上げを主張して反対に回った。 |
|---|---|
| 米PCE価格指数 | 米商務省経済分析局(BEA)が毎月発表するインフレ指標。米FRBによるインフレターゲットの対象指標となっている。米CPIと同系統の指標であるが、消費者の代替行動と呼ばれるある品目の価格が急騰した際、消費者がより安い代替品へシフトする行動(例:牛肉が高騰したため豚肉の購入を増やす)を反映、調査範囲がCPIよりも広いなど、家計の生活実態により近いとみられることから、金融政策運営での影響力が大きいとされている。ただ、発表がCPIに比べると遅く、水準自体は違うが、変化傾向は似ているため、市場ではCPIを重視する傾向がある。 |
今週の注目指標
| 米雇用動態調査(JOLTS)(5月) 6月30日23:00 ☆☆☆ | 前回4月の雇用動態調査(JOLTS)は、注目度の高い求人件数が761.8万件と、市場予想の686.6万件、3月の688.7万件を大きく上回り、2024年3月以来約2年ぶりの高水準となった。5月の市場予想は736万件と、強すぎた前回の反動から少し減少見込みも、水準的にはかなり高いものとなっている。4月のJOLTSでは雇用市場の流動性などに関連して注目される自発的離職率が1.9%と3月の2.0%から低下し、自発的離職者数は297.7万人と2020年8月以来の低水準となったことから、同項目も注目される。求人件数が予想前後もしくはそれ以上の結果となった場合、米雇用市場への安心感からドル買いが見込まれる。ドル円が162円をトライするきっかけとなる可能性がある。 |
|---|---|
| 米ISM製造業景気指数(6月) 7月1日23:00 ☆☆☆ | 前回5月の米ISM製造業景気指数は54.0と市場予想の53.0、4月の52.7を大きく上回り、2022年5月以来4年ぶりの高水準となった。内訳をみると、AI投資ブームなどが支えとなって新規受注が56.8と4月の54.1から上昇し、全体を支えた。雇用部門は48.6と好悪判断の境となる50.0を下回っての推移が続いたが、4月の46.4からは改善している。今回の予想は53.8と5月から小幅鈍化も、5月が強すぎた感があり、水準的にはまずまず。新規受注、雇用などの内訳と合わせて好調さを示すと、ドル高になると見込まれる。上値を抑えている162円手前のドル売りを崩す材料となる可能性がある。 |
| 米雇用統計(6月) 7月2日21:30 ☆☆☆ | 前回5月の雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+17.2万人と、市場予想の+8.8万人を大きく上回る伸びとなった。4月および3月の数字も大きく上方修正される力強いものとなった。内訳をみると、トランプ政権下での連邦政府職員の整理を受けて昨年後半から今年初めまでマイナスが目立った政府部門が+5.2万人としっかりした伸びとなった。2024年6月以来の伸びである。民間部門は+12.0万人と4月の+17.7万人からは鈍化したものの、力強い伸びを維持している。民間の財部門はAIデータセンターの建設ラッシュなどを受けて、建設部門が+1.7万人と好調で、財部門全体でも+2.8万人となった。民間サービス部門は構造的な人手不足を抱える介護部門などを擁する医療・社会扶助部門が+4.72万人と力強さを維持。6月開催の北米ワールドカップを前に、飲食が+4.8万人、宿泊が+1.06万人、芸術・スポーツ・娯楽が+1.17万人と伸びており、レジャー&ホスピタリティ全体で+7.0万人となった。一方、景気に敏感な小売業が-1.1万人、運輸・倉庫が+0.6万人などと冴えず、金融も-2.2万人と減少が見られるなど、一部で弱さが見られている。 今回の予想であるが、非農業部門雇用者数は+13.0万人と、5月の+17.2万人、4月の+17.9万人、3月の+21.4万人を下回る伸びとなる見込みである。失業率は4.3%で5月と同水準の見込み。平均時給は前月比+0.3%と5月と同水準、前年比+3.5%と5月の+3.4%から小幅に伸びる見込みである。 非農業部門雇用者数の伸び鈍化に関しては、ダラス連銀の算出するブレークイーブン雇用者数(失業率を悪化させないために必要な雇用者数)の+3.0万人前後をしっかりと上回っており、水準的にはまずまずという印象である。関連指標のまずまず感もあり、予想前後の数字が出てくると、米雇用市場の安定した状況への期待が広がるとみている。発表時まで162円手前の売りが上値を抑えていた場合でも、結果次第では162.00円のポイントを超えて一気に上昇する可能性がある。 |
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