2026年07月13日号

(2026年07月06日~2026年07月10日)

先週の為替相場

国内政策スタンスの交錯と中東地政学リスクに翻弄され、162.71円への急騰後に161円台へ急落

 先週(7月6日–7月10日)の外国為替市場でドル円は、日本の金融・財政政策スタンスを巡る思惑や、緊迫化した中東情勢に伴う有事のドル買いなどを背景に、一時162.71円まで上値を伸ばした。しかし週後半には、片山財務相による国内投資後押し発言などをきっかけに「日本売り」の巻き戻しが急進。一時161.29円まで急落するなど、週末にかけて方向感を激しく揺り動かすボラティリティの高い一週間となった。

週前半(6日-7日):骨太方針を巡る要人発言と地政学リスク再燃による乱高下

 6日(月)の東京市場は、前週末の弱い米雇用統計を受けたドル売りから一時161.20円付近まで下押しして始まったものの、その後は円売りが優勢となった。政府の「骨太の方針2026」における日銀への利上げ牽制観測に加え、高市首相が国内投資の不足や経済成長への強い姿勢を示したことで財政拡大への思惑が台頭。日本国債利回りの上昇とともに日本株・国債・円の「トリプル安」が進行し、ドル円は海外時間にかけて一時162.42円まで急伸した。

 7日(火)に入ると、午前中に城内経済財政相が骨太方針による利上げ牽制の見方を「誤解である」と否定したことで円買いが進んだ。ドル円は162.10円前後から一時161.68円まで急落した。しかし午後以降は、中東のホルムズ海峡でのタンカー攻撃を受けた米国の石油制裁緩和撤回などから地政学リスクが再燃。原油先物価格の急騰や米国債利回りの上昇を伴って有事のドル買いが強まり、ニューヨーク市場終盤には162.30円台を回復するなど、神経質な振幅を繰り返した。

週半ば(8日-9日):「日本売り」加速とトランプ発言による162.71円への上昇

 8日(水)の東京市場では、国内の財政悪化懸念や日銀の緩やかな利上げペースへの警戒から再び「日本売り」の地合いが強まり、日経平均株価が1,100円超下落するなかでドル円は162.46円まで上昇。ロンドン市場での一時的な調整を経て、ニューヨーク市場でトランプ米大統領による「イランへの激しい攻撃」を示唆する発言が伝わると地政学リスクがピークに達した。WTI原油先物が76ドル台へ急騰するなかでドル全面高の展開となり、ドル円は一時162.71円と週間の最高値を記録した。

 しかし9日(木)に入ると、有事のドル買いが一服。米中央軍による攻撃一段落報道を受けて原油価格が下落するとドル高が後退し、東京午後には162.32円までじり安となった。ニューヨーク市場では、トランプ大統領が「イラン側から合意を求める連絡があった」と述べ、軍事衝突のエスカレート懸念が後退。さらに前日公表のFOMC議事録を受けてFRBの年内利上げ期待が後退したこともドルの重石となり、162.30円台を中心に戻り売りに押される展開となった。

週後半(10日):片山財務相発言による急落とトリプル安の巻き戻し

 10日(金)の東京市場は、朝方の162.40円前後から大幅な下落となった。閣議後の閣僚会見において片山財務相が「日銀を巡る骨太方針の記述を与党で調整中」としたほか、「GPIF(用語説明1)などの年金基金による国内投資を後押しする」と表明。城内経財相も日銀の自主性を尊重する姿勢を示したことで、日本の政策スタンス修正への期待から国債が急買い戻され、10年債利回りは2.75%台へ急低下した。従来の「日本売り」の巻き戻しから株高・債券高・円買いが同時進行し、ドル円は一時161.29円まで急落。ロンドン・ニューヨーク市場にかけてはじりじりと161円台後半まで値を戻したものの、全般に上値の重いなかで一週間の取引を終えた。 

今週の見通し

 先週後半の地政学リスク後退や国内要人発言を受けて、市場の「日本売り」のモメンタムに変化の兆しが生じている。特に、片山財務相が言及したGPIFによる国内投資後押しや、骨太方針の与党調整の動きは、日銀の追加利上げ期待の継続、日本の投資資金の海外流出の鈍化、さらには世界の投資資金の日本への流入拡大といった期待につながり、円の下支えとなる可能性がある。

 もっとも中東情勢は週明けいったん緊迫化する形となった。週末に米国とイランはミサイルとドローンによる攻撃を強めている。イランは湾岸諸国にある米施設に対する攻撃を実施。停戦協議の仲介役ともなっているカタールの米軍施設にも攻撃が行われた。米軍側もホルムズ海峡に面した軍事施設へのミサイル攻撃などを実施している。週明けはこうした動きを受けて有事のドル買いが広がった。中東情勢については事態の収束に向けた前向きな動きが期待されていた分、警戒感が広がっている。こうした流れは有事のドル買いと、リスク回避の円買いに作用する。ドル円ではドル買いの勢いが勝るものの、クロス円では円買いが強まる可能性がある。

 日米の金利差を狙った円キャリー取引もドル円の下支えとなる。日米の金利差は依然大きく、円キャリー取引に絡んだ押し目買い需要は依然として強いとみられる。

 ドル円は先週末に見られた日本売り一服からの円買いと、有事のドル買い、円キャリー取引などによる円売りと、リスク回避の円買いの交錯という展開が見込まれる。

 いったんは落ち着くと期待された中東情勢が再び緊迫化してきた影響が大きいとみられ、ドル円は堅調な動きが見込まれる。7月1日に付けた直近高値162.84円の更新も視野に入ってくるだろう。ただ、今週は米消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)、ウォーシュFRB議長による半期に一度の金融政策報告書に関する議会証言(用語説明2)などの重要イベントも控えており、その結果次第では流れに変化が生じる可能性がある。

 ユーロ円は中東情勢がらみのドル主導の展開の下で不安定な動きが見込まれる。186円手前の重さもあり、戻りでは売りが出る展開を見込んでいる。

 ユーロドルは1.1400ドルを中心とした推移から、やや下方向にリスクが傾く。有事のドル買いが進むと今月の安値を更新する可能性がありそうだ。1.1500ドル前後の重さもあり、全体の流れは下方向とみる。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 

用語の解説

GPIF 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)のこと。2006年4月1日にそれまでの年金資金運用基金から年金積立金の管理・運用業務を引き継ぐ形で設立された。2025年12月末時点での総資産は約293兆円。単一の年金基金としては世界最大となる。
金融政策報告書に関する議会証言 1978年に成立した「完全雇用均衡成長法」(通称ハンフリー・ホーキンス法)により、FRBは「雇用の最大化」と「物価の安定」という2大命題が課せられ、その現状報告と今後の方針を年2回議会に提出し、報告書に基づいて議長が議会で証言を行う義務を負った。この報告書が金融政策報告書となる。ハンフリー・ホーキンス法自体は2000年に失効しているが、報告書の提出と議会証言はその後も継続している。5月に就任したウォーシュ議長にとっては就任後初の議会証言となる。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI)(6月)
7月14日21:30
☆☆☆
 前回5月の米CPIは前年比+4.2%と、2023年4月以来およそ3年ぶりの高い伸びとなった。中東情勢によるエネルギー価格の上昇を背景に、4月の+3.8%から伸びが加速したものの、市場予想とは一致している。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年比+2.9%となり、4月の+2.8%からこちらも加速したが、同じく市場予想通りの結果であった。
 一方、前月比は総合が+0.5%、コアが+0.2%となり、4月の+0.6%、+0.4%からそれぞれ鈍化している。自動車保険が2020年10月以来の低水準となる前月比-1.7%となったことが、全体の押し下げ要因となった。前年比の内訳を見ると、ガソリンが+40.5%の大幅高となったことでエネルギー全体が+23.5%となり、総合指数を大きく押し上げた。コア部門のうち、財(モノ)部門は前年比+1.1%と4月から横ばい。中古車・トラックが5か月連続で前年比マイナスとなるなど弱い部門もある一方、アパレル部門が+4.8%と高い伸びを見せて全体を支えた。輸入比率の高さから衣料品が高めに出ているほか、貴金属高などを背景にジュエリーが前年比+21.4%となったこともアパレル全体の伸びに響いた形だ。
 今回発表される6月CPIの市場予想は、総合が前年比+3.8%と前回から鈍化する見込みだ。コアCPIも+2.8%と、小幅ながら鈍化が予想されている。原油高が一服したことを受けて5月から6月にかけてガソリン価格が大きく下落しており、米エネルギー情報局(EIA)による全米全種平均では1ガロン当たり4.609ドルから4.184ドルへ9.2%低下した。昨年との比較でも、ガソリン価格の伸びは5月の+40.6%から+27.7%へと大きく鈍化している。コア部門についても、ガソリン安に伴う流通コストの低下や、前回強かった金・プラチナの反落によるジュエリーの伸び鈍化が見込まれるため、コア全体でのインフレ鈍化が期待されている。
 期待ほどの鈍化を見せなかった場合はドル高が見込まれる。ドル円は162円台回復に向けた動きが予想される。
米ウォーシュFRB議長議会証言
7月14日・15日
☆☆☆
 ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の半期金融政策報告書に関する議会証言が14日に下院金融サービス委員会、15日に上院銀行住宅都市委員会で行われる。5月の議長就任後初の議会証言となる。今後の金融政策方針や6月のFOMCでも指摘されたAIインフラ投資とインフレの関係などについての発言が注目されている。物価の高止まりについての警戒感が広がると、利上げに向けた動きが強まる可能性がある。
 6月のFOMCでは全メンバーが最終的に金利据え置き決議への支持を表明した。ただ、議論の中で、金利を引き上げる十分な理由があるとの見解を示すなど、物価高を強く警戒する動きが一部で見られた。こうしたFOMC内部の姿勢の違いなどへの言及も注目ポイントとなる。
 今月のFOMCでの据え置き見通しは継続と見られるが、9月のFOMCでは利上げ見通しが大勢となっている。インフレへの警戒が強く示されることで、利上げ見通しが高まると、ドル高となる可能性がある。ドル円は162円台半ばに向けた動きとなる可能性がある。
米生産者物価指数(PPI)(6月)
7月15日21:30
☆☆☆
 前回5月のPPIは前年比+6.5%と、2022年11月以来およそ3年半ぶりの高い伸びを記録した。4月の+5.7%から加速し、市場予想の+6.4%も上回る結果となっている。一方で食品とエネルギーを除くコアPPIは+4.9%にとどまり、市場予想(+5.4%)を下回った。総合PPIを牽引したのは原油高に伴うエネルギーの伸びであり、エネルギーを含めた財(モノ)全体の伸びは前年比+10.4%、前月比でも+2.8%と、2009年12月の統計開始以来最大の伸びを記録している。
 今回の6月PPIの市場予想は+6.2%と、水準自体は依然として高いものの、5月からは伸びが鈍化する見込みだ。一方で、コアPPIは+5.2%と5月から伸びが加速すると予想されている。原油高一服の影響で総合がCPI同様に大きく落ちるかなどがポイントだ。
 2日発表の米雇用統計で非農業部門雇用者数が予想を大きく下回ったことで、米国の早期利上げ期待は後退した。14日の米CPI、15日の米PPIによって、「原油高一服によるインフレ進行懸念の後退」が印象付けられれば、利上げ期待の後退からドル売りがもう一段進むとみられる。ドル円は160.00円に向けた動きが見込まれる。

auじぶん銀行外貨預金口座をお持ちのお客さま

ログイン後、外貨預金メニューからお取引いただけます

免責事項

本レポートは株式会社時事通信社が提供しています。また本レポートの内容は、株式会社時事通信社が提供する情報をもとに、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドが執筆しています。本レポートは、情報提供のみを目的にしたもので、売買の勧誘を目的としたものではありません。投資決定に当たっては、投資家ご自身のご判断でなされますようお願いいたします。株式会社時事通信社、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドおよび情報提供元は、本レポートに記載されているいずれの情報についても、その信頼性、正確性または完全性について保証するものではありません。また本レポートに基づいて被った損害・損失についても何ら責任を負いません。本レポートに掲載されている情報の著作権は、株式会社時事通信社および株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドに帰属します。本レポートに掲載されている情報を株式会社時事通信社の許諾なしに転用、複製、複写等することはできません。

Copyright(C) JIJI Press Ltd. All rights reserved.

auじぶん銀行からのご注意

  • 本画面に掲載されている情報は、auじぶん銀行の見解を代弁したものではなく、auじぶん銀行がその正確性、完全性を保証するものではありません。

以上の点をご了承のうえ、ご利用ください。