2026年07月21日号
先週の為替相場
中東地政学リスクと米インフレ指標に揺さぶられ、方向感欠くも有事のドル買いが底堅さを発揮
先週(7月13日–7月17日)から週明け20日にかけての外国為替市場でドル円は、中東情勢の緊迫化に伴う「有事のドル買い」やGPIFを巡る国内政策観測、そして弱含んだ米インフレ指標(CPI・PPI)が交錯する展開となった。週中盤にかけて米インフレ鈍化を受けて一時161.60円台へ急落する場面もあったが、日米金利差を背景とした円キャリー需要や根強い地政学リスクに支えられ、週末から週明けにかけては162円台半ばまで持ち直すなど、方向感に乏しいなかでドル円の底堅さが見られる一週間となった。
週前半(13日-14日): 中東情勢緊迫化による有事のドル買いと米CPIを受けた急落
13日(月)は、イラン情勢の悪化や原油高を背景とした「有事のドル買い」が強まり、ドル円は162円台を中心とした荒い値動きとなった。東京市場ではGPIFなどの国内投資支援発言を巡る報道に一喜一憂し、円安と国債売りが進行。片山財務相発言の政府筋による否定や木原官房長官の発言などで乱高下したのち、NY市場にかけて有事のドル買いから162円台半ばまで上昇した。
14日(火)に入ると、東京市場では「日本売り」の一服から軟化。NY市場で発表された米消費者物価指数(CPI)が予想以上に鈍化したことで米国債利回りが急低下し、ドル円は一時161.62円まで急落した。しかし、円キャリー取引への根強い期待から押し目買いが入り、下値は限定的となった。
週半ば(15日-16日): インフレ指標軟化も地政学リスクとタカ派姿勢がドルを支援
15日(水)は、ロンドン市場で米中央軍のイラン攻撃開始報道から原油高となり有事のドル買いが強まったものの、NY市場で発表された米生産者物価指数(PPI)が14日の米CPIに続いてインフレ鈍化を示したことで今月FOMCでの利上げ確率が急低下し、ドル円は再び161.80円台へと軟化した。しかし、トランプ氏が軍事作戦拡大を示したことなどでイラン情勢の緊迫化が続き、終了間際には162円台へ戻した。
16日(木)の東京・ロンドン市場は、ボラティリティが歴史的低水準に低下する極めて静かな取引となった。しかしNY市場に入ると、米新規失業保険申請件数が予想を下回ったことや、対イラン攻撃の再開報道、さらにはFRBのタカ派姿勢や年後半のドル高シナリオが意識されドル高が優勢となり、ドル円は一時162.55円まで上昇した。
週後半(17日-20日): 膠着状態の継続と中東情勢の混迷
17日(金)から週明け20日(月)にかけては、主要通貨ペアは方向感を欠き膠着した展開となった。強い米経済指標や中東情勢の緊迫化がドルの下支えとなる一方、週末を控えたポジション調整やNYカットオプションの巨大な行使期限設定が上値を抑え、ドル円は162円台前半から半ばの極めて狭いレンジにとどまった。20日には原油価格の急伸後にイラン外務省の外交努力継続姿勢が伝わり有事リスクがやや緩和する場面もあったが、イエメンのフーシ派(用語説明1)による海上封鎖表明など中東情勢は依然として混迷しており、神経質なもみ合いが続いた。
今週の見通し
今週のドル円相場は、引き続き中東の地政学リスクと米金融政策の思惑に左右される神経質な展開が見込まれる。先週の米インフレ指標(CPI・PPI)の鈍化によりFRBの早期利上げ期待は後退したものの、年内1回以上の利上げの可能性は依然として織り込まれており、日米の金利差を狙った円キャリー取引の継続がドル円を支える材料となっている。
ここにきて不透明感が強まる中東情勢が最大の焦点となる。米国とイランの攻撃の応酬やイエメンのフーシ派によるサウジへの海上封鎖表明など、事態のエスカレーションへの警戒感がくすぶっている。有事のドル買い圧力が強まりやすい環境にあり、原油高による取引通貨としてのドルの需要拡大という追い風も加わって、ドル高方向へのリスクが意識されやすい状況にある。日米金利差を背景とした円キャリー取引に絡んだ押し目買い意欲と合わせて、ドル円のサポート材料となる。
もっとも、先週も材料となったGPIFなどの年金基金による国内投資比率の引き上げ観測が断続的に円買い材料として浮上する可能性がある。163円を超えるドル高円安となった場合、日本の通貨当局によるドル売り円買い介入への警戒感が高まることも、ドル円の上値を抑えている。
ドル円は、161円台後半での底堅さを確認したことで、当面は162円台を中心とした推移が見込まれる。中東情勢の深刻なエスカレーションが現実となれば、上値追いへの警戒が強まり、一段のドル高円安が進行する可能性もある。ただ、上値追いには慎重な姿勢も見られ、来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)までは162円台を中心としたレンジ取引に終始する可能性が高い。
ユーロは、中東リスクを受けたエネルギー価格の高止まりによる欧州景気懸念が上値を重くしている。ユーロドルは1.1450-1.1500ドルが重くなった印象。今週後半に控えるECB理事会では政策金利の据え置きがほぼ確実と見られ、相場への影響は限定的となりそう。ユーロ円はドル円の堅調な動きが支えも、対ドルでのユーロ安に引っ張られ、戻りでは売りが出やすい展開を見込んでいる。
ポンドドルは、バーナム新首相(用語説明2)就任に伴う政権移行が予想以上に円滑に進んだことで底堅さを見せ、政治混乱終結への期待から一時1.34ドル台後半まで買い戻された。しかし、新政権には経済立て直しと財政健全化という難題が待ち受けており、財政運営への懸念からポンドの上昇は持続しないとの見方も根強い。今後は政策の具体化を見極める段階に入り、上値の重い展開が予想される。
用語の解説
| フーシ派 | シーア派の分派であるザイド派イスラム主義を掲げるイエメンの親イラン反政府武装集団。正規名称は「アンサール・アッラー(神の支持者)」。2014年以降、同国首都サヌアを含む同国北部を実効支配しており、イエメン政府と内戦を続けている。 |
|---|---|
| バーナム新首相 | アンディ・バーナム(Andy Burnham)第81代イギリス首相。リバプールで生まれ、子供時代はマンチェスターで育つ。ケンブリッジ大学フィッツウィリアム・カレッジ卒。熱心な党員であった両親の影響で14歳で労働党に入党。大学卒業後業界紙記者などを経て、2001年に下院議員に初当選。第3次ブラウン内閣で保健相に就任。2017年よりグレーターマンチェスター市長。コロナ禍において当時の保守党の進めた規制強化に強く反発して、名を博す。地元民からは「キング・オブ・ザ・ノース(北部の王)」と呼ばれていた。2026年6月の下院補欠選挙で勝利し、下院議員に返り咲くと、スターマー首相(労働党党首)の辞任を受けた同年7月17日の党首選で無選挙で党首に選出され、7月20日に首相に就任した。 |
今週の注目指標
| 豪雇用統計(6月) 7月23日10:30 ☆☆☆ | 前回5月の豪雇用統計は、雇用者数が前月比+4.03万人と市場予想の+3万人前後を超える伸びとなった。ただ、4月の雇用者数が-1.86万人から-4.07万人まで大きく下方修正されたことや、非正規雇用が中心の伸びとなっており正規雇用は+0.52万人にとどまったことなどから、豪ドル買いは限定的にとどまった。今回は+1.5万人と前回から伸びが鈍化すると見込まれているが、プラス圏は維持する見込みとなっている。市場予想前後の伸びが示され、正規雇用もしっかり伸びているようだと、豪雇用市場の堅調さが意識され、豪ドル買いとなる可能性がある。豪ドル円は115.00円を目指す可能性がある。 |
|---|---|
| ECB理事会 7月23日21:15 ☆☆☆ | 23日21時15分にECB理事会の結果が発表され、同日21時45分ごろからラガルドECB総裁の会見が行われる。6月の理事会ではインフレ警戒もあって利上げに踏み切り、中銀預金金利を2.00%から2.25%としたECBだが、今回は据え置きが見込まれている。前回の利上げは中東情勢を受けたインフレ警戒によるものであった。ユーロ圏消費者物価指数(HICP)は、米国による対イラン軍事作戦の開始前となる2月時点の前年比+1.9%から、5月には+3.2%まで上昇。インフレターゲットの2.0%を大きく上回る伸びとなったため、利上げで対応する形となった。その後、原油高が一服したこともあり、6月の消費者物価指数は+2.8%まで鈍化。変動の激しいエネルギー、食品、アルコール、たばこを除いたコア消費者物価指数も+2.6%から+2.4%へ鈍化した。さらに、国内の需要動向を色濃く反映することからECBが重視している「サービスインフレ」も+3.5%から+3.2%へ鈍化しており、金利をいったん据え置いて様子見に回る余地が出てきている。 短期金利市場における今回の据え置きの織り込み度は95%(利上げは5%)となっており、市場は現状維持をほぼ織り込んでいる。そうした中、最大の注目は「今後に向けての姿勢」となる。原油価格の落ち着きに伴い6月の物価上昇率は鈍化したものの、依然として+2.8%とターゲット(2.0%)を大きく上回っていること、またサービスインフレも3.2%と高水準にあることから、市場では9月のECB理事会での利上げを見込む動きが大勢を占めている。足元で米国とイランの対立が再び激化し、7月初旬に67ドル台だったNY原油先物(WTI)が今週初めに85ドル台まで上昇するなど、原油価格が再び上昇傾向にあることも次回以降の利上げ期待をサポートしている。そうした中、ラガルド総裁がインフレの高止まり警戒をどこまで示すかが注目される。今後の追加利上げ期待が高まるようだと、ユーロドルは1.15ドル台回復に向けた動きが期待される。 |
| 日本全国消費者物価指数(6月) 7月24日08:30 ☆☆ | 24日に6月の全国消費者物価指数(CPI)の発表が予定されている。5月は生鮮食品を除くコア前年比が+1.4%と、4月から横ばいとなった。市場予想とも一致している。コメ価格の落ち着きを背景に生鮮を除く食料品価格の伸びが鈍化し、全体を押し下げている。電気・ガス代への補助金が4月でいったん打ち止めとなったことで前月比では強めの数字が出たものの、前年(2025年)も同様に4月で打ち止めとなっていたため、前年比で見た場合の影響は限定的に留まった。 6月の全国CPIは+1.5%と小幅な上昇が見込まれている。インフレターゲットである2.0%を下回る状況は継続する見通し。先行指標となる6月の東京都区部消費者物価指数(東京CPI/6月26日発表)では、生鮮除くコア前年比が+1.6%と、5月の+1.3%から上昇した。市場予想とも一致している。コメ価格の落ち着きから食品の伸びが10カ月連続で鈍化したものの、水準的には+3.9%と依然高めを維持し、全体を支えた。また、原油高の一服でエネルギー価格は-2.3%とマイナス圏を維持したものの、5月の-3.7%からは下落幅が縮小し、全体を押し上げた。その他、診療報酬の改定に伴う診療費の上昇も影響している。なお、全国CPIの予想に対して東京CPIの伸びが大きく見えるが、これは「水道基本料金無償化」の実施時期のズレによるベース効果だ。東京都は昨年も無償化を実施しているが、昨年は6月から開始されたのに対し、今年は5月から開始された。これにより、今年は5月分が低く出た一方、6月は前年比での押し下げ要因が剥落したため、数字が大きく出やすくなっている。 現在、日銀の追加利上げ期待は「9月まで」が20%、「年末まで」が95%といった状況だ。よほど予想を大きく下回る結果にならない限り年末までの利上げ期待は維持されるとみられるが、現状でインフレターゲットを下回っている以上、予想を大幅に上振れない限り、今月(7月)や9月の会合での利上げを予想する声は少数派に留まりそうだ。そのため、今回の指標が短期的な相場に与える影響は限定的とみられる。しかし、「10月または12月の利上げが濃厚」というシナリオは円キャリー取引の継続期待につながり、中期的にはドル円やクロス円の下値を支える要因となる。ドル円の161円後半での押し目を支える材料となりそう。 |
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