2026年07月27日号
先週の為替相場
中東情勢緊迫化に伴う原油高と米金利上昇がドル高誘い、ドル円は約40年ぶりの高値となる163円台後半へ急伸
先週(7月20日–7月24日)の外国為替市場でドル円は、中東情勢の急速な悪化を背景とした「有事のドル買い」と原油高に伴う「日本の交易条件悪化による円売り」が主導する展開となった。週初こそ地政学リスクの緩和や巨大なオプション設定に挟まれ1ドル=162円台前半での膠着スタートとなったが、週中盤から後半にかけては米国とイランの攻撃応酬やフーシ派を巡る強硬姿勢から原油価格が急伸。米長期金利の上昇も加わり、ドル円は一時164円に迫るなど、1986年以来約40年ぶりの高値水準を塗り替える一週間となった。
週前半(20日-21日): 週初の膠着から一転、中東情勢緊迫化で1986年以来の高値圏へ
20日(月)は、東京市場が海の日の祝日で休場となるなか、ロンドン・NY市場ともに方向感を欠く展開となった。イラン外務省の外交努力継続姿勢により原油価格が反落したほか、ドル円には162.00円に31億ドルの巨大なNYカットオプション設定が観測され、一方向への値動きが強く抑制された。ユーロドルは1ユーロ=1.1450ドル前後が重くなり、1.1410ドル前後を付けた。ユーロ円は1ユーロ=186.00円前後が重くなり、対ドルでのユーロ売りもあって185.30円台まで下げている。
21日(火)に入ると、東京市場は162.50円前後で極めて狭いレンジの揉み合いとなったが、ロンドン市場では堅調な株高や原油高を背景とした円売りが優勢となった。さらにNY市場では中東情勢の混迷が深まり、米軍の連続攻撃が報じられると、原油価格の急伸とともに米国債利回りが上昇。エネルギー供給懸念からFRBの9月利上げ観測が台頭し、ドル円は一気に163円台へと上伸して1986年以来の高値を記録した。ドル全面高を受けてユーロドルは一時1.1390ドル台を付けるなどユーロ安ドル高となったが、ドル円でのドル高円安の勢いが勝ったこともあり、ユーロ円は186.10円台まで上昇した。
週半ば(22日-23日): 日銀報道による一時的急落を経て、有事のドル買い加速で164円に迫る
22日(水)の東京市場では片山財務相による円安牽制発言があったものの市場の反応は限定的で、163円台前半の高値圏でもみ合った。ロンドン市場では「日銀が利上げペース加速に柔軟な姿勢を示した」との関係者報道を受けて一時162.69円付近へ急落する場面もあったが、その後NY原油先物が88ドル台へ上伸したことで有事のドル買いが再燃。NY市場ではトランプ氏がフーシ派に対して強硬対応を表明したこともドルの支えとなり、163円台前半での推移が続いた。ユーロドルは1.13ドル台での売りに慎重で、動きが抑えられた。ユーロ円はドル円の上昇に支えられてしっかりとした動き。ドル円同様に日銀関係者報道に一時円高となり、186.10円台から185.70円台を付けたが、その後買い戻しが入った。
23日(木)は、東京市場午前に発表された6月の豪雇用統計(用語説明1)がかなり強く出たことで、豪ドル高ドル安が進行。ユーロドルが朝の1.1400ドル台から1.1430ドル台を付けるなどドル全般の売りがやや優勢となった。ロンドン市場ではルビオ米国務長官の対イラン強硬発言などをきっかけに地政学リスクへの警戒が一段と激化。原油先物が90ドル台へ乗せ、米10年債利回りも4.67%台後半へ急上昇するなか、リスク回避のドル買いと日本の交易条件悪化を巡る円売りが加速し、ドル円は163.44円付近まで上伸した。NY市場ではさらにドル買いが加速し、一時163.99円と心理的節目である164.00円に迫る歴史的な高値を付けた。ユーロドルも1.1360ドル台までユーロ安ドル高となった。
週後半(24日): 原油反落による調整を挟むも、高値圏を維持
24日(金)の東京市場では、週末の軍事衝突拡大警戒や原油高に伴う米利上げ観測が根強く、163円台後半での高値揉み合いが続いた。ロンドン市場では特段の情勢好転はないものの、週末のポジション調整から原油先物が88ドル台へ反落したことでドル円も163.60円台へ押し戻された。NY市場でも一時163.64円まで下押ししたものの、一部新聞社による「日銀の7月会合、政策金利据え置きへ」との報道をにらみつつ、下げ一巡後は再び買い戻されて163.80円台で週の取引を終えた。ユーロドルは週末を前にした持ち高調整に1.1400ドル前後まで上昇も、その後1.1360ドル台を付けている。
今週の見通し
今週のドル円相場は、歴史的な高値圏にあるなかで、中東の地政学リスクと原油価格の動向、そして週半ば以降の日、米、英の金融政策会合に注目する展開が予想される。先週は地政学リスクを起点とした原油高・米金利上昇がドル高を牽引したが、この構造的な要因が意識される限りはドル円の下値は極めて強固とみられる。
最大の焦点は、米国・イラン間の軍事衝突やフーシ派の動向といった中東情勢のエスカレーションリスクである。23日まで13日間連続で行われた米軍によるイランへの空爆は24日以降は収まった。これを受けてイランも報復攻撃を停止している。米国のウォルツ国連大使(用語説明2)は、26日に米メディアに対して、トランプ大統領はイランとの「協議の余地を残している」と発言しており、いったん対立が収まる可能性もある。仲介国であるパキスタンとイランが米国との協議の道を模索する動きがあるとの報道もある。協議再開の動きが広がると、NY原油の下落などを受けたドル安円高が強まる可能性がある。もっとも状況は相当に不透明で、再びの対立激化でドル高円安となる可能性も否定出来ないだけに、下がると買いが出る展開が続くと見込まれる。
164円に迫るところまでドル高円安が進んだことで、日本の通貨当局による為替介入への警戒感も高まっている。先週は片山財務相の牽制発言への感応度が鈍かったものの、164円台突入やそれ以上の急ピッチな円安進行に対しては、断固たる措置への警戒から上値を追う動きには慎重さも求められる。また、先週末に一部報道で伝わった日銀の据え置き観測を巡る思惑や、決定会合での国債買い入れ減額計画の具体策、さらには来週のFRBの政策スタンスを見極めたいとのムードから、週後半にかけてはポジション調整の動きが優勢になる可能性もある。
ユーロは、中東リスクに端を発したエネルギー価格の高止まりが欧州景気への懸念を根強くさせており、対ドルで上値の重い展開が続いている。先週のECB理事会では金利が据え置かれたものの、ラガルド総裁がエネルギーショックによるインフレ上振れリスクへの強い警戒を示したことで、原油価格動向に左右されやすい地合いとなった。ユーロドルは1.13ドル台への下落トレンド回帰が意識されており、今週も1.1350-1.1450ドルのレンジで弱含みの推移が想定される。
ユーロ円はドル円の歴史的な堅調さに支えられて186円台を維持しているが、対ドルでのユーロの重さに引っ張られやすい。中東情勢をにらんだドル主導の展開が見込まれるだけに、不安定な動きが予想される。米国とイランの対立が落ち着いた場合はリスク選好による円売りが優勢となる可能性もある。
用語の解説
| 6月の豪雇用統計 | 6月の豪雇用統計は、雇用者数が前月比+7.63万人となり、市場予想の+1.5万人前後を大きく上回った。オーストラリアの人口は2800万人前後であり、米国の12分の1程度であることを考慮すると、予想からの5万人超の上振れは相当に大きいという印象を与えた。新規雇用の内訳をみると、正規雇用が5月の0.72万人増から2.93万人増と伸びており、こちらも好印象となった。 |
|---|---|
| ウォルツ国連大使 | マイケル・ウォルツ(Michael Waltz) 国連大使。陸軍士官学校を経て陸軍に勤務。米陸軍特殊部隊グリーンベレーでも勤務した経験がある。2018年の下院選挙に当選(フロリダ6区)。第2次トランプ政権において国家安全保障担当大統領補佐官に指名され、2025年1月20日に就任(下院議員を辞職)。シグナルチャットリーク事件などで情報管理の甘さを批判され、同年5月1日に補佐官を解任され、国連大使に指名された(事実上の更迭)。同年9月19日に上院で国連大使人事が承認された。 |
今週の注目指標
| 米連邦公開市場委員会(FOMC) 7月30日03:00 ☆☆☆ | 28/29日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。政策金利は据え置き見通しがやや優勢となっている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、昨年9月のFOMCから3会合連続で利下げを行った後、今年に入って4会合連続で政策金利を据え置いている。もともとは今年も利下げサイクルの継続が見込まれていたが、2月28日に始まった米国とイスラエルの対イラン軍事作戦の影響で世界的に原油高が進行。米国でも物価高警戒感が強まったことで、一転して利上げの期待が広がった。ウォーシュ新議長の下での初会合となった前回6月のFOMCでは、全会一致での政策金利据え置きとなった。もっとも、声明を大幅に簡素化する中で、これまで見られた緩和バイアスを削除。ウォーシュ議長を除く18名が示した2026年末時点での政策金利見通し(ドットチャート)では、9名が利上げ、8名が据え置き、1名が利下げと、参加者の半数が利上げを見込むタカ派姿勢が見られた。これを受けて会合後の短期金利市場では、7月FOMCでの利上げ見通しが10%前後から40%前後まで上昇した。 7月2日に発表された6月の米雇用統計が予想を大きく下回る伸びにとどまり、利上げ期待がいったん後退した。しかし、8日に発表された6月会合の議事要旨を確認すると、議論の中で数人の参加者がインフレの粘着性(高止まり)を理由に即時の利上げ検討を主張していたことが判明した。直近の物価統計の明確な加速に言及し、AIインフラ投資の拡大に伴う物価上昇圧力への警戒も見られるなど、タカ派姿勢が示された。これにより再び利上げ期待が強まった。もっとも、14日の米消費者物価指数(CPI)、15日の米生産者物価指数(PPI)がともにかなり弱い伸びにとどまったことで、利上げ期待が大きく後退し、前回FOMC直後の10%前後まで低下した。 その後、中東情勢の緊迫化からNY原油先物相場が反転。2日に付けた67ドル台から23日に93.5ドルまで上昇する中で、リスク警戒のドル買い(有事のドル買い)や原油高からの米物価高への警戒が広がり、急速に利上げ期待が浮上した。23日には一時46.9%まで上昇し、据え置き見通しと拮抗する状況となった。その後は少し落ち着いたが、現在も35%前後と、無視できない割合で利上げ期待が見られる。 今回の会合の注目ポイントとしては、大勢の見通し通り据え置きとなるか、議長提案への反対がどれほど出るか、そしてそれらを踏まえた今後の政策金利見通しがどうなるか、などが挙げられる。利上げとなった場合はドル高、据え置きとなった場合でもタカ派姿勢が目立ち、次回以降の利上げ期待が強まるようだとドル高となりそうだ。ドル円は164円台トライが意識される。 |
|---|---|
| 英中銀金融政策会合 7月30日20:00 ☆☆☆ | イングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC)の結果が30日に発表される。今回は結果、議事要旨に加えて、金融政策報告(Monetary Policy Report)が公表され、総裁会見が行われるスーパーサーズデーにあたっている。政策金利は据え置きで見通しがほぼ一致している。22日に発表された6月の英消費者物価指数(CPI)は前年比+2.6%と5月の+2.8%、市場予想の+2.7%を下回る伸びにとどまった。米国とイスラエルの対イラン軍事作戦開始による原油高を受けて、3月に+3.3%まで上昇した英CPIは、その後伸びが鈍化している。もっとも4会合連続での据え置きを決めた前回6月のMPCでは、エネルギーショックが英経済に与える影響は不透明で、CPIは今年後半上昇するとの見通しが示された。こうしたインフレ警戒を受けて前回会合では9名の委員のうち2名が利上げに投票している。 今回のMPCでは据え置き見通しがほとんどとなっているが、9月のMPCでの利上げ見通しは66%に及んでいる。年内の利上げ回数は2回が大勢となっている。このような今後の利上げ期待に対して、金融報告や総裁会見でどのような姿勢が示されるかが注目される。9月の利上げ期待がもう一段高まるようだと、ポンド高が見込まれる。ポンド円は219円台に向けた動きが期待される。 |
| 日銀金融政策決定会合 7月30/31日 ☆☆☆ | 30日、31日に日銀金融政策決定会合が開催され、31日に昼前後に結果が公表される。31日午後3時半から植田日銀総裁が会見を行う。短期金利市場では現行の1.00%での据え置き見通しが98%と圧倒的となっており、政策金利面での波乱要素は少ない。ただ、今回は「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」が発表される回に当たっている。足元では日本の消費者物価指数(生鮮除くコア)前年比はインフレターゲットの2.0%を下回っての推移が続いているが、中東情勢を受けた原油高の再燃もあり、今後についてどのような見通しを示すのかなどが注目される。 22日に通信社ブルームバーグが複数の日銀関係者からの情報として、日銀が利上げペースを半年に1回程度の市場見通しよりも加速させることに柔軟な姿勢であると報じており、9月以降の利上げ期待が強まってきている。次回の利上げは12月という見方が優勢であったが、報道もあり、9月会合での利上げ期待が33%程度まで上昇、10月会合での利上げ期待は80%を超えてきている。展望レポートや植田日銀総裁の会見で、こうした利上げ見通しに対してどれだけ前向きな姿勢が見られるかがポイントとなる。利上げ期待が広がると、円買いが強まる可能性が高い。ドル円は162円台を付ける可能性がある。 |
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