2026年08月03日号

(2026年07月27日~2026年07月31日)

先週の為替相場

日米協調介入の実施で円が歴史的急騰、ドル円は163円台から大暴落

 先週(7月27日–7月31日)の外国為替市場でドル円は、それまでの歴史的なドル高円安トレンドから一転、政府・日銀による巨額の為替介入と「日米協調介入」によって大波乱の暴落展開となった。週初こそ中東情勢の一服感やイベント前の様子見から163円台後半での高値揉み合いが続いたが、週後半の米FOMCや日銀決定会合を通過するタイミングで潮目が激変。木曜NY時間に突如として163円台から158円割れへと急落する実弾介入が持ち込まれると、金曜にも追加介入が実施された。週明け8月3日の東京午前には日米協調介入(用語説明1)の公式発表を背景に一時155.23円まで円が急騰。ユーロ円も187円台半ばの週間高値から180円割れへと急落するなど、市場のパワーバランスが完全に逆転する一週間となった。

週前半(27日-28日): 中東リスク和らぎ原油急落も、金利差とイベント前の調整で163円台後半を維持

 27日(月)は、週末に米国によるイランへの空爆停止やイラン側の報復停止が報じられたことで、これまでの地政学リスクに伴う有事のドル買いが大きく後退した。ロンドン市場では原油先物価格の急落を受けてインフレ懸念が和らぎ、ドル円は一時163.46円付近から163.33円付近まで値を下げる場面が見られた。しかし、日米の根強い金利差を背景とした円キャリー取引への信頼感は根強く、下値では押し目買いがしっかりと流入。NY市場では163円台後半へと値を戻して引けた。ユーロドルはドル安を受けて底堅く、ユーロ円もドル円の底堅さに支えられて186.20円台へと上昇した。

 28日(火)の東京市場では、アジア市場で半導体関連株を中心に株式市場が記録的な急落を見せたことからリスク警戒の円買いが先行し、ドル円の上値が抑えられた。夕方には熊本で震度7の激しい地震が発生したものの為替市場への影響は一時的なものにとどまった。ロンドン市場からNY市場にかけては、翌日以降に米FOMCや日銀会合といった巨大イベントを控えるなかで様子見ムードが広がり、短期ポジションの調整(ドルショートの買い戻し)が優勢に。ドル円は163円台後半の極めて狭いレンジでのもみ合いに終始し、ユーロ円もドイツ経済の小幅プラス成長を伝える報道などから186.60円付近へとじり高の歩みを見せた。

週半ば(29日-30日): FOMC後のドル安から、木曜NY時間に巨額の為替介入が急襲し158円割れへ

 29日(水)の東京市場は、韓国の半導体大手の冴えない決算を契機としたアジア株の急落により、再びリスク回避の円買いが強まり一時163.28円まで下落。しかし夜に発表された米FOMCでは、政策金利こそ据え置かれたものの、ウォーシュFRB議長の会見が市場の利上げ期待を大きく後退させる慎重な内容となったことでドル全面安が進行した。この流れでユーロドルが1.1465ドル付近へ急伸したことで、ユーロ円は連れて187円台半ば(週間高値)まで吹き上がったが、ドル円は163円台前半へと押し下げられた。

 30日(木)は、日銀金融政策決定会合の結果発表を翌日に控え、東京市場では一時163.64円まで買い戻されるなど神経質な展開となった。しかし、ロンドン時間中盤に突如として強力な円買いが持ち込まれ162円台前半へ急落すると、NY時間には市場の肝を冷やす大暴落が発生。163円台から一気に158円割れ(安値157.98円)へと5円近く急降下する波乱相場となった。市場では日本の当局による大規模な覆面介入(後に30日単日で約8.45兆円規模と報道)が実施されたとの観測が確実視され、クロス円も軒並み大崩れとなった。なお、同日の英MPCでは6対3の票割れで金利据え置きとなったが、ポンド円もこの円急騰の嵐に巻き込まれ乱高下した。

週後半(31日): 日銀無風通過による買い戻しを叩く、連日の追加介入で157円台へ一段安

 31日(金)の東京市場では、日銀金融政策決定会合で政策金利の据え置きが発表され、事前の一部利上げ観測が裏切られたことから「材料出尽くし」の円売りが再燃。ドル円は一時160.88円、ユーロ円は185.17円まで急激に買い戻された。植田日銀総裁の会見でも早期利上げへの具体的な言及がなかったことで円売り地合いが続くかと思われたが、ロンドン序盤に再び牙を剥いた。突然160円割れから158.55円へと再急落し、当局の介入姿勢が改めて意識された。さらにNY市場に入ると円買いの勢いは一段と加速し、一時157.28円まで暴落。この局面では、NY連銀(用語説明2)が米大手銀行に対しユーロ円相場の「レートチェック」を実施したとの報道が駆け巡り、市場には単独介入ではなく「日米協調介入」が行われている可能性が意識された。ユーロ円も181円台まで急落するなど、今までの円安の流れが転換する形で週末の取引を終えた。

今週の見通し

 2日になって31日にNY連銀がユーロ円でのユーロ売り円買いを行う協調介入を実施したことを日米通貨当局関係者が認めたと報じられた。3日には片山財務相が協調介入の実施と、追加の協調介入も躊躇しないとの談話を発表している。ベッセント財務長官も協調介入を認めている。

 今週のドル円相場は、これまでの日米金利差を狙った円キャリー取引の継続を背景とした「下がれば押し目買い」の円売りスタンスと、日米当局による「上がれば叩く」介入警戒感に伴う戻り売りが交錯する展開が予想される。

 介入自体は今年4月30日から数日にわたって実施されているが、今回焦点となるのが、日米の協調介入であるという点である。協調介入は2011年の東日本大震災を受けたG7全体による実施以来となる。円買い方向としては1998年6月のアジア危機以来であり、歴史的な事態としてこれまでの日本単独介入とは重みが異なるとの意識が市場で広がれば、一段と円買いが優勢となる可能性がある。

 また、先週までドル高を牽引していた中東情勢をにらんだリスク警戒の動きも変化してきている。米国とイランの攻撃応酬やフーシ派を巡る中東の地政学リスクは、空爆・報復の相互停止報道やトランプ政権による協議の道模索からいったん沈静化しており、原油先物価格の急落は日本の交易条件悪化による構造的な円売り圧力を大きく減退させている。

 なお、今週は、3日23時の米ISM製造業景気指数を皮切りに、経済指標の発表が相次ぎ、週末には最大の注目イベントである米雇用統計が控えている。もし米国の景気減速を示す弱い結果となれば、FRBの利上げ期待後退とともに米長期金利が低下し、介入への恐怖心も手伝ってドル円は155円割れ、さらには5月上旬以来の円高水準への下落トレンドを強める可能性が高い。展開次第では、ここからさらに下げ幅を拡大するシナリオも視野に入りそうだ。

 ユーロは、対ドルでは中東リスク後退に伴うエネルギー価格下落が欧州景気懸念を和らげ、先週のテクニカルライン上抜け(1.15ドル台回復)に伴う買いシグナルから底堅い推移が見込まれる。1.15ドル台を中心に1.16ドル台回復も視野に入る展開となりそうだ。しかし、ユーロ円に関してはドル円の急落や、NY連銀による介入がユーロ円で行われたことなどを受けて上値の重い展開が予想される。ドル円の動き次第となるが、178円台に向けた動きとなる可能性に警戒したい。

用語の解説

協調介入 2か国以上の通貨当局が協調して外国為替市場への介入を実施すること。日米の協調介入は東日本大震災を受けた急激な円買いに対応するため、G7が緊急電話会合で合意して、日、米、ユーロ、英、カナダの各中銀が実施して以来となる。円買い方向での協調介入は、アジア通貨危機を受けた1998年6月以来約28年ぶりとなる。
NY連銀 ニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York)は、米国に12ある連邦準備銀行の一つでニューヨーク州やニュージャージー州北部などからなる第2地区を管轄。米国の金融政策の実務を担当しており、米財務省による為替介入などに際しても、実際の取引を担当する。NY連銀総裁はFOMCにおける副委員長を兼任(委員長はFRB議長)し、他の地区連銀と違ってFOMCでの投票権を常に保有している。

今週の注目指標

米ISM製造業景気指数(7月)
8月3日23:00
☆☆☆
 3日発表の7月ISM製造業景気指数の市場予想は53.90と、前回の53.3から小幅に上昇し、4年ぶりの高水準となった5月の54.0に迫ると予想されている。前回は新規受注や生産が小幅に鈍化したものの、雇用指数が+1.1ポイント改善の49.7となり、好悪判断の節目である50に迫った。今回、全体の改善に加えて雇用指数が50の大台を回復すれば、雇用統計への期待感が高まりそうだ。なお、5日には同非製造業景気指数が発表される。市場予想は54.3と、前回6月の54.0から小幅な上昇が見込まれている。前回は新規受注の減少などを受けて5月の54.5から鈍化したが、雇用指数は+3.3ポイントの51.2へと大幅に上昇し、50を上回る好結果であった。今回もこの雇用の力強さが継続しているかが焦点となる。
米雇用動態調査(JOLTS)(6月)
8月4日23:00
☆☆☆
 6月米雇用動態調査(JOLTS)では、求人件数の予想が750万件と、前回の759.4万件から小幅に減少する見込みだ。前回は市場予想の730万件を大きく超え、2024年5月以来2年ぶりの高水準であった。前回が強かった分、今回はやや弱く見えるが、水準としては底堅さを維持していると言える。ただ、前回は採用件数が2カ月連続で減少し、自発的離職率も低水準にとどまるなど、雇用の流動性低下が警戒される内容であった。今回もこうした内訳の動きに注目が集まる。
米雇用統計(7月)
8月7日
☆☆☆
 7月の米雇用統計が発表される。前回6月分は非農業部門雇用者数(NFP)が+5.7万人と市場予想の+11.3万人を大きく下回る伸びにとどまるサプライズとなった。さらに5月分が+17.2万人から+12.9万人に、4月分が+17.9万人から+14.8万人に、計7.4万人の大幅な下方修正となる弱い結果となっている。失業率は4.3%から4.2%へ小幅改善しているが、労働参加率が61.8%から61.5%に低下した分とみられ、好印象にはつながらなかった。
 非農業部門雇用者数の内訳を確認すると、政府部門は+0.8万人となった。5月の+3.2万人から伸びは鈍化したものの、2カ月連続でプラス圏を維持している。民間部門では、財(モノ)部門が+1.0万人と堅調であった。特にAIデータセンターの建設ラッシュが続く中、建設業が+1.1万人と好調さを見せている。一方で、民間サービス部門は+3.9万人にとどまり、3カ月連続で伸びが鈍化した。なかでも小売業が-0.4万人、卸売業が-0.8万人となり、ともに4カ月ぶりのマイナス圏に沈んでいる。景気に比較的敏感で雇用の流動性も高い業種だけに、やや警戒感を誘う結果となった。介護部門など高齢化社会での人手不足業種を抱える教育・医療部門は、+6.9万人と好調さを維持している。今回、特に弱さが目立ったのは娯楽・接客業の-6.1万人だ。この部門が、雇用統計の予想外の弱さをもたらした最大の要因となった。2026FIFAワールドカップ特需による堅調さが期待されていたが、予想に反して宿泊・飲食部門が-5.46万人となっている。これについては、6月10日に国土安全保障省の移民関連予算である「セキュア・アメリカ法」が成立し、移民の取り締まり強化が懸念されたことなどが重石となった可能性が指摘されている。
 こうした状況を踏まえた今回の市場予想だが、非農業部門雇用者数は+8.0万人と、前回から伸びが小幅に加速する見通しとなっている。失業率の予想は4.2%と前回から横ばい、平均時給も前月比+0.3%、前年比+3.5%と、いずれも6月分から横ばいが見込まれている。非農業部門雇用者数は前回から改善するとはいえ、それ以前の3カ月(3月〜5月)の平均である+16.4万人と比べるとかなり弱い伸びにとどまるため、雇用情勢の減速トレンドが継続しているとの印象は拭えないとみられる。セントルイス連銀が試算するブレークイーブン雇用者数(失業率を悪化させないために必要な雇用増の目安)の+1.5万人~+8.7万人という水準内であり、極端に悲観的な数字ではないが、もし今回の結果が予想を下回るようなら、いったんドル売りが強まる可能性がありそうだ。

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