2026年09月07日号
先週の為替相場
日銀利上げ観測とGPIF動向で円キャリー巻き戻し、一時155円台へ急落
先週(8月31日–9月4日)の外国為替市場でドル円は、米国の金融政策、中東情勢の悪化、そして日銀の追加利上げ観測という三つの要因が相互に干渉し、大きく変動する展開となった。週前半はベッセント米財務長官の利上げ圧力発言や日本の長期金利上昇があったものの、米実質金利の高さによる円キャリー取引(用語説明1)でのドル買い需要や中東リスクによる有事のドル買いが支えとなり、介入後の戻り高値水準である160円台で底堅く推移した。しかし週半ばにかけて、日銀の高田審議委員による大幅利上げの示唆やGPIF(用語説明2)の国内債投資拡大観測が浮上すると円買いが加速した。ウォラー米FRB理事のハト派な発言も加わり、1カ月続いた円安トレンドが構造的に反転し一時155円台半ばまで急落した。週末の米雇用統計では非農業部門雇用者数が予想を上回る強い結果となり一時ドルが急伸したが、その後の荒い値動きを経て156円台前半で週の取引を終えた。
週前半(31日-1日): 米長期金利上昇と中東リスクを背景に160円台を維持
31日(月)から1日(火)にかけては、ベッセント米財務長官による日銀への利上げ圧力発言や、日本の10年物国債利回りが1996年以来となる3%台へ上昇したことを受けて円買いが先行する場面もあった。しかし、米長期金利も同時に上昇して日米金利差の縮小が意識されにくかったことや、ホルムズ海峡を巡る中東情勢の悪化警戒から原油高が進んだことで有事のドル買いが優勢となった。ドル円は一時160.25円と介入後の戻り高値を更新し、底堅い推移を見せた。ユーロは欧州指標の悪化と原油高が重石となり上値が重かった。
週半ば(2日-3日): 日銀利上げ観測とGPIF動向で円キャリー巻き戻し、155円台へ急反落
2日(水)から3日(木)にかけては相場の流れが一変した。東京市場で高田日銀審議委員が0.5%への利上げの可能性を示唆したことに加え、GPIFによる国内資産へのシフト観測が浮上し、円全面高の展開となった。さらにNY市場でウォラーFRB理事が政策決定は次回のインフレ指標次第と言及し米利上げ期待が後退するとドル売りが加速した。過去1カ月続いた円キャリートレードの強烈な巻き戻しとみられる動きが市場で広がり、ドル円は200日移動平均線を明確に下抜けて155円台半ばまで急落した。
週後半(4日): 予想を上回る米雇用統計で乱高下、156円台で着地
4日(金)は、注目の米雇用統計で非農業部門雇用者数が予想を大きく上回る力強い伸びとなり、過去の数値も上方修正された。これを受けて米金利が上昇し、9月のFOMCでの利上げ期待が意識されるとドル円は156.75円まで急騰した。しかし直後に目立った材料がない中で155.36円まで急反落するなど、レートチェックの噂も指摘される荒い値動きとなった。その後は週末を控えた行き過ぎた動きへの警戒感から買い戻され、156.20円台に落ち着いて越週した。
今週の見通し
今週のドル円相場は、1カ月続いた緩やかな円安トレンドが構造的な反転を迎えた可能性があり、円キャリー取引の巻き戻しに対する警戒感が続く中で上値の重い神経質な展開が予想される。
最大の焦点は、日米の通貨当局によるドル高円安進行への牽制姿勢と、日本の早期利上げ期待などを受けた、ドル安円高の進行がどこまで強まるかとなる。先週のドル円は160.39円と7月末のドル売り円買い介入以降の戻り高値を付けた後に、日銀の追加利上げ観測やGPIFの資金シフト観測をきっかけに155円台まで急落したことで、上値一服感が広がっている。一方で、先週末の米雇用統計が米労働市場の力強さを示したため、米国の急激な景気後退懸念は薄らいでおり、これがドルの一定のサポートとして機能している。155円という心理的節目を明確に割り込んでいくかが直近のテクニカルなポイントとなる。
今週は、米FOMC関係者がブラックアウト期間(FOMC前に会合参加者の発言が制限される期間)に入っており、米国からの中銀関係者発言が期待できない。一方、日本は増日銀審議委員が木曜日に福井県で講演を行う。同委員は5月に鹿児島県で行われた講演で、早期利上げに向けた積極的な姿勢を示し、6月の利上げ実施につながった。9月の利上げ期待が強まる中で、同委員がどのような姿勢を示すのかが注目される。
介入やレートチェックへの警戒についても引き続き重要なテーマとなる。先週末の雇用統計発表後には、材料難の中で155円台前半へ急落する場面があり、市場の一部では当局のレートチェックの可能性が疑われた。ボラティリティ(変動率)が高い状態が続いており、投機的な急変動に対する日米当局の牽制姿勢が、下値を試す際の一定の防波堤となる可能性もある。
週後半には米物価統計の発表も予定されている。9月の米FOMCでの利上げ期待がもう一段高まるようだと、一転してドル高が強まる可能性がある点にも注意したい。
ユーロやポンドなどの欧州通貨は、対ドルでは米国の金利動向や中東情勢による有事のドル買い需要に押され方向感を欠く推移となりそうだが、対円(クロス円)では円の買い戻し圧力に押され軟調な展開が予想される。ユーロは欧州の原油高による交易条件の悪化懸念が重石となって米欧金利差が縮小しても買われにくい構造となっており、ポンドも英国予算案などを控えてリスク回避の円買いが入りやすい地合いが続くと見られる。
用語の解説
| 円キャリー取引 | 低金利の通貨(円など)を借り入れて売り、より金利の高い通貨(ドルなど)を買って運用することで、その金利差(スワップポイント)を収益として狙う取引手法。日銀の利上げ観測や投資家のリスク回避姿勢が強まると、ポジションを解消(円を買い戻し)する動きが急激に進み、短期間で大幅な円高要因となることがある。 |
|---|---|
| GPIF | GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う機関。世界最大規模の機関投資家であり、その運用資産構成(ポートフォリオ)の変更は国内外の金融市場に多大な影響を与える。国内金利の上昇局面において、国内債券への投資割合を拡大するとの観測が出たことが、大規模な円買い要因として市場で意識された。 |
今週の注目指標
| ECB政策金利 9月10日21:15 ☆☆☆ | ECB(欧州中央銀行)は、9日、10日の理事会で政策金利を2会合ぶりに引き上げる見通しとなっている。市場ではほぼ100%利上げを織り込んでいる。1日に発表された8月のユーロ圏調和消費者物価指数(HICP)は前年比+3.3%まで上昇しており、インフレターゲットである2%を大きく上回っている。さらに3日に発表された8月のユーロ圏生産者物価指数(PPI)は前年比+5.8%まで上昇。消費者物価指数に対して先行性があるといわれる生産者物価指数の高い伸びに、今後のインフレ高止まり警戒が強まっており、ECBの積極的な利上げ姿勢につながっている。注目はラガルド総裁の会見で、どこまで今後の利上げ継続姿勢を示してくるのかなどになる。市場は今回に加えて、年内あと1回の利上げを見込んでおり、来年上半期にも1回の追加利上げを予想している。早期の追加利上げ期待が加速するようだと、ユーロ買いにつながる可能性がある。ユーロドルは1.17ドル台に向けた動きが予想される。 |
|---|---|
| 米生産者物価指数(8月) 9月10日21:30 ☆☆☆ | 10日に米生産者物価指数(PPI)、11日に米消費者物価指数(CPI)の発表が予定されている。米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長は8月28日のジャクソンホール会議での基調講演において、「PCEの2%目標、確固たる揺るがない目標」「目標に向かい明確かつ十分なペースで向かっていかないのであれば、FRBはやるべきことがある」「政策金利の調整がデュアルマンデートを実現するための主要な手段」「労働市場はかなり安定しており、FRBが現在最も注力すべきは物価である」などと発言した。インフレの高止まりへの警戒感を示し、物価動向を警戒しつつ、利上げに向かう姿勢を示唆する形となり、講演を受けて9月15日、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の見通しは、据え置き65%、利上げ35%という状況から据え置き35%、利上げ65%に変化し、利上げ期待が多数派を占める状況となった。米国のインフレターゲットの対象であるPCE(個人消費支出)価格指数の8月分は9月30日の発表となり、今月のFOMCには間に合わないこともあり、同様の指標であるCPI及びCPIやPCEに対して先行性があるPPIの最新データに対して注目が集まる。 前回7月のPPIは前年比+4.7%と6月の+5.5%から大きく鈍化した。市場予想の+4.9%も下回っている。ガソリン価格の低下とそれを受けたエネルギー高一服がPPIの伸び鈍化につながった。寄生虫感染症「サイクロスポラ症」の流行を受けて、感染源の一つと指摘されているレタスの需要減からの大幅な価格下落(前月比-73%)などによる食料品の下げも見られた。サイクロスポラ症の流行はまだ続いているため、8月の数字も警戒が必要である。 今回の市場予想は前年比+5.2%、食品とエネルギーを除くコア前年比が+4.6%とともに7月の+4.7%、+4.2%を超える伸びが見込まれている。中東情勢への警戒を受けて原油高が進む中で、エネルギーの反発が見込まれている。予想を超えると、ドル高の材料となるが、大きな乖離でなければ、翌11日の米消費者物価指数待ちとなる可能性が高い。 |
| 米消費者物価指数(CPI)(8月) 9月11日21:30 ☆☆☆ | 前回7月の米CPIは前年比+3.4%、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア前年比+2.5%となった。ともに市場予想と一致したものの、6月の+3.5%、+2.6%から鈍化している。中東情勢を受けた原油高への警戒感は継続していたものの、6月7月と価格が落ち着きを見せており、ガソリン価格も低下していたことで、全体を押し下げた。7月のガソリン価格は前年比+24.6%と6月の+26.7%から鈍化。エネルギー価格全体でも+14.7%と6月の+15.7%から鈍化した。食品価格は豚肉価格の低下、レタス価格の急落(前月比-16.4%)などを受けて、前月比で伸びが鈍化も、前年比では+3.0%の横ばいとなっている。コア項目では、財部門が前月比で+0.2%と6月の-0.1%から回復。衣料品や中古車が前月比で上昇したことが押上材料となった。もっとも前年比では+0.8%で横ばいとなっている。コアサービス部門は前月比+0.2%と6月の前月比横ばいから伸びが強まったが、前年比では+3.0%と6月の+3.2%から伸びが鈍化した。自動車保険の前年比-4.5%などを受けて輸送サービスが+2.9%と6月の+3.4%から鈍化したことが全体を押し下げている。 こうした状況を受けた8月のCPIだが、前年比+3.4%と前回と同水準見込みとなっている。中東情勢警戒もあって原油価格が上昇、ガソリン価格も上昇傾向となり、前月比では+0.4%と7月+0.1%から伸びが強まる見込みだが、前年比ベースではコア項目の鈍化期待もあって落ち着くとみられる。コア前年比は+2.4%と7月の+2.5%から鈍化。同前月比は+0.2%で7月と同水準見込みである。 8月のガソリン価格は米エネルギー情報局(EIA)の全米全種平均で1ガロン当たり4.192ドルと7月の4.064ドルから3.15%の上昇。前年比でも伸びが鈍化している。一方コア項目に関しては比較対象元の2025年7月の数字が、自動車や医療費の伸びを受けて6月から伸びており、ベース効果で見かけ上伸びが鈍化するとみられる。 予想に反して前年比で7月を超える伸びが見られると、ドル高が強まる可能性がある。9月のFOMCについては、利上げ期待がやや優勢も、短期金利市場での織り込みは58%程度となっており、据え置き見通しが42%程度とかなりの割合で残っている。PPIとCPIの結果を受けて、利上げ期待が80%を超えてくるような状況が見られると、ドル買いが進み、ドル円は157円台回復に向けた動きになると見込まれる。 |
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